2005-07-01から1ヶ月間の記事一覧
痾 麻耶 雄嵩 「メルカトルさん……僕は白鳥になれるのでしょうか」 「白鳥はなるものではないよ」 微笑んでメルカトルは云った。 「白鳥は白鳥として生まれるんだ」 これもご都合主義っちゃそうだった。しかし夏と冬ほど理解不能ではなかったし、名(銘)探偵…
ぼくのミステリな日常 若竹 七海 「その歳になるまで花見をしたことないなんてさ。ちょいと国宝級だよ。花は桜木、人は武士。桜をめでてこそ、日本人ってもんでしょうが」 「風下、町人で結構ですよ。春、地面や風のなかからパワーを引き出して咲き狂う花を…
ブラフマンの埋葬 小川 洋子 僕が話しだすと、必ず彼は僕の目を見た。疑いも持たず、うんざりもせず、あまりにも澄んでいるので本当にそこにあるのか心配になってくるほどの瞳を、こちらに向けてきた。かつて誰かにこんなふうにただひたすら、見つめられたこ…
暗闇坂の人喰いの木 島田 荘司 「離れて見ているんだ、二人とも。呪われるのが怖ければ、ずっと離れていてくれ。部屋に帰ってベッドに入っていてくれてもいいぜ! 呪われるくらいなんだっていうんだ? 僕はへっちゃらさ。これをやらなきゃあ事件は永久に解決…
きよしこ 重松 清 「誰かになにかを伝えたいときは、そのひとに抱きついてから話せばいいんだ。抱きつくのが恥ずかしかったら、手をつなぐだけでもいいから」(きよしこ) 「最後を悲しい終わり方にはするなよ。お芝居いうか、嘘っこのお話は、途中がどげん…
雨にもまけず粗茶一服 松村 栄子 「お兄ちゃんに言われたくないな。修行は面倒くさいとか贅沢できないからいやだとかお茶やってるなんて恥ずかしくてひとに言えないとか、それでうちほっぽらかして出てったひとが偉そうなこと言わないでよ。言っとくけど、ボ…
オルファクトグラム 井上 夢人 鋭敏な鼻を持つっていうのは、ただ単に香水の成分が嗅ぎ分けられるとか、一ヶ月も前に部屋を訪ねてきた人をその匂いでみつけだすことができるとか、そんなものじゃないんだ。世界が違うんだよ。イヌはね、あんたたちとはまるっ…
ナイフ 重松 清 自殺なんか、ぜったいにするもんか。生きていくっていうのは、つらいんだから。そうだよ、楽しいわけないんだ。いままでの生活のほうがおかしかったんだ。赤の他人に囲まれてるんだもん、つらくないわけがないんだから。(ワニとハブとひょう…
美濃牛 殊能 将之 ぼくはきみのなかに迷い込んだ。もう糸を手にしてはいない。美濃牛に殺されなかったことが、なんになるだろう? ぼくはきみがこわいんだ。 先日読んだ彼の『鏡の中は日曜日』がシリーズだったことをTBして下さった方のお陰で知り、石動が…
野ブタ。をプロデュース 白岩 玄 嫌悪感先行の蔑みの笑いと、バカにしても根元に愛のある笑いの違いは大きい。わかりやすく言えば「あいつキモイよな」と「おまえキモイよな」では全然意味が違うということだ。面と向かってバカにできるということは、ある程…
スクランブル 若竹 七海 子どもだったのだ、どんなに背伸びをしていたとしても。いまになってそれがわかる。そして、多少、いやかなりみっともなかったにしても、あのとき、自意識の強さに押し潰されそうになりながら、それでも走り続ける力を、子どもだった…
むかしのはなし 三浦 しをん 「だれかを好きだった記憶もなくなるぐらい生きて、俺が死んでも気づくやつが一人もいないほどになったら、そのときやっと、俺は本当に自由になれるんじゃないかと思うんだ」 三浦しをんの新刊です。嘘です。二月の本だから。し…
幸福な食卓 瀬尾 まいこ テストが終わったところで(あと一つ残ってるけどもういい)参加させていただきます。今日早速閉館間際の図書館に駆けつけて9冊ほど借りてきました。ああ、ビバ夏休み……! 本題に入ろう。彼女の単行本は5冊しかでていないのね。私…
死神の精度 伊坂 幸太郎 私が好きな伊坂の甘さがところどころに効いてて、皆さん仰られるように盛り上がりには欠けるものの、その淡々とした雰囲気やら、いつもながらの軽妙な会話やら、音楽への愛情やら……総括としては好きだなあ、ってことです。私、伊坂が…
SPEED 金城 一紀 「俺たちを動けないように縛ってるのは信号機じゃなくて、目に見えないもんなんだよ。中川はその操作の方法がうまいんだろ、きっと。でも、俺とか南方とか舜臣とか萱野とか山下は、自分たちの目と頭が正しいって判断したら、赤信号でも渡る…
プリズンホテル冬 浅田 次郎 ずるいよー。浅田次郎うますぎるよ。面白いよ。笑えるよ。泣けるよ。才能って、何だろう……。このシリーズ、全て手元において置きたいなあ。
黒猫館の殺人 綾辻 行人 「自分の行動を理性でコントロール出来ないような状態になる事が、耐えられないんです。一体何処がそんなに面白いのか」 「理性という言葉がお好きなようですな」 「そうですね」 氷川は薄く笑って、 「今のところ、それが僕の“神”で…
第三の時効 横山 秀夫 結構読んでるつもりだったのに、13冊中8冊しか読んでいないことに気付く(しかも『動機』なんて読んだことを覚えていなかった)。……全然駄目じゃん。悔しいのでコンプしたいです。……恩田陸、若竹七海、その他もろもろ、いつになるや…
蒼穹の昴〈下〉 浅田 次郎 素晴らしい物語。登場人物全員が良い意味でも悪い意味でも輝いていた。やっぱり文庫じゃなくて単行本で読む方が断然好きだ。 どうにもならない時だってどうにかしなきゃいけない。自分の手で去勢してでも人生を切り拓いていった春…
透明な旅路と あさの あつこ 「ここで死んでもいいと思っているんですか。自分を犠牲にして、おれたちを救ったとでも思っているんじゃないでしょうね。もしそうなら、それって、独りよがりの自己満足ですよ。わかってます?」 携帯サイトで連載されたものを…