2005-02-01から1ヶ月間の記事一覧
レモン・ドロップス 石井 睦美 そして、このごろ、だらしないくらいにやさしいあたしは、真希ちゃんのために祈りさえする。坂口くんが、あたしすら知らない真希ちゃんの美点を見出していて、そして、真希ちゃんのあまりある悪いところも含めて、好きでいてく…
螢 麻耶 雄嵩 世の中に存在するという意味が段々と怖くなった。考え始めると止処がなくなり恐ろしくなった。まるで宇宙の裏側にいつ辿り着けるか考えている気分だった。六十億の中の一人。部屋を地球だとすると、畳の目一つよりも小さき存在。 2005この…
イニシエーション・ラブ 乾 くるみ 「私、今日のことは一生忘れないと思う。……初めての相手がたっくんで、本当に良かったと思う」 「初めての相手……だけ?」と聞くと、彼女は微笑んで顔を左右に振った。 「ううん。二度目の相手もたっくん。三度目の相手もた…
若葉のころ 長野 まゆみ 「凛従兄さんが、どうして氷川さんぢゃなきゃダメなのか、ほんとうは解ってる。……似たものなんて要らないんだ。俺がどんなに従兄さんを真似たって、関心を惹くはずがない。そんなのは窮屈で退屈。自分の尺度に合わせてほしいなんて、…
対岸の彼女 角田 光代 「けどさ、ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」 なぜ私たちは年齢を重ねるのか。生活に逃げ込ん…
ももこの話 さくら ももこ 私は、朝からどうやってこの暑さをしのぐかということを真剣に考えながら暮らしているのだ。それなのに、心地よく眠っている私にタオルケットをかけるなんて、嫌がらせとしか思えない。 さくらももこが子供の頃のエッセイ。どうし…
人形館の殺人 綾辻 行人 ――は笑った。 微かに、喉の奥不覚で。 (怯えるがいい) 唇の端が僅かに吊り上がる。 (充分に、怯えるがいい) 急いではいけない。まず恐怖を与え、じわじわと追いつめ、そして……。 (そして……) 感想を書くに当たって「メタミステ…
心理学通になる本―ふしぎなふしぎな人間のココロがだんだんわかる ビッグペン+サイコロジー研究会 心理学を専攻する予定なので、極々たまにこんな本も読んでます。でも、先に読んだのも同じようなやつだったから大して新しい発見もなく。さらーっと心理学を…
センセイの鞄 川上 弘美 センセイ、とわたしは言った。ため息のような声で。 ツキコさん、とセンセイは答えた。非常に明晰な、センセイじみた声で。 「センセイ、センセイが今すぐ死んじゃっても、わたし、いいんです。我慢します」そう言いながら、わたしは…
幸福な食卓 瀬尾 まいこ 「佐和子のためなら、相手がアントニオ猪木みたいに強くても勇敢に戦うし、セーラみたいにか弱くてかわいそうな相手でも同情せずにぶっ飛ばすってこと」 「すごいだろ? 気付かないところで中原っていろいろ守られてるってこと」 「…
彼等 長野 まゆみ 「理由を聞かせろよ。何がどういいのか。ただの男だろう。どうしてそう惚れるんだ。」 「……理由なんてない。……あすもあさってもない。……今だけ……なんだ。……それでいい、」 「そう、あわてるな。まだ先は長いんだ」 「ほかのどんな場所でも…
硝子のハンマー 貴志 祐介 「ちくしょう、まさか、こんなことを本気でやるとは。ふざけやがって……」 自分の声が、荒々しく昂ぶっていくのを感じた。 「こいつは、デッド・コンボだ!」 「榎本さん? いったい、何? どうしたの?」 人の命など、一瞬の炎の閃…
恋愛小説 川上 弘美, 篠田 節子, よしもとばなな 他 だって、全部なんてかけて愛したら、相手に悪いもの。そんな重くて大きな思いを、恋愛をしているというだけの理由で相手に負わせるなんて、身勝手すぎるもの。(天頂より少し下って) 「いや、がんばるわ…
碧空 長野 まゆみ 「……ぼくは、べつに見透かされることや、どんな人間かを推測されるのを恐れているわけぢゃない。その結果として、嗤われるのなら仕方ないし、有沢さんが云う表面の像に未練があるわけでもない。そんなのは、どうでもいい。……ぼくは、ただ、…
しゃばけ 畠中 恵 「血の臭いがする! 一太郎ぼっちゃん、怪我をしたんですか?」 「もう、ぼっちゃんはよせと言っているのに! いつまでも子どもじゃぁないんだから」 言い返した若旦那の言葉なぞ聞いてもいない。あっという間に佐助の手が伸びて、赤子のよ…
コッペリア 加納 朋子 人形はなぜ埋められる? なぜ簡単に崩れ壊れてしまう? なぜ捨てられるのだ? 人はなぜ、人形を作るのだろう? 笑っている人形を。泣いている人形を。怒っている人形を。苦しんでいる人形を。 様々な感情を人形に背負わせて。 『ささら…
6ステイン 福井 晴敏 人を騙し、裏切り、時には殺しもする行為を前に、わたしは言われたことをやっただけですって言い訳が通るわけはない。それは実際に手を汚したことがある者なら、誰でも知っている。(中略)安眠を忘れ、身を切るような呵責を抱えて、そ…
占星術殺人事件 島田 荘司 「御手洗君、四十年という時間を軽んじちゃいけないよ。凡人だって四十年もかけるなら、ピラミッドの一つくらい作るんだ」 こういう皮肉っぽいいいまわしが、私が御手洗から学んだ最大のものであろう。 「こんな嫌な事件は見たこと…
影踏み 「双子ってそんなに大切?」 「……別に大切なわけじゃない」 「うそ」 「本当だ」 「だったら、どんな存在?」 「当たり前すぎる存在だ」 ≪修兄ィと一緒にいたかったからさ。話したら、もう一緒にいられなくなるもん≫ <なぜ話したら一緒にいられなく…
禁涙境事件 ”some tragedies of no-tear land” 上遠野 浩平 “そうですね――世界の、いや矛盾の再発見ですかね” 仮面を間に置かない、その剥き出しの視線がぎらぎらと、凍りつくような冷気を放っていた。 何かが欠落していた。 人は誰しも、他人と接するときに…
ハサミ男 殊能 将之 「きみは今回の事件がハサミ男の犯行ではないと知っている、この世でたったふたりの人間のうちのひとりなんだよ。きみが探さなければ、誰が探すのかね」 「たったふたりの人間? もうひとりは誰だ」 「真犯人さ」 彼は第13回メフィスト…