アントニオ・タブッキ『インド夜想曲』 ★★★☆
初めてのタブッキ。漫然と読んでしまったのできちんと噛み砕けていないが、興味深かった。メタ視点での読みを要求されるので、うたた寝しながら読んではいけません。
- 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1993/10/01
- メディア: 新書
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失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。(Amazon)
イタリア旅行にいくのでイタリア人作家を読もうと手に取りました。そしたらインド旅行したときの記憶が蘇った。何の手配もしないでインドの空港に降り立ち、飛行機で一緒になった日本人カップルと三人でタクシーに乗り込んで場末のホテルに突撃したことを。
いわゆる白人が南アジアを旅するとこういう景色が見えるのかしらね。東アジア人の目で見るのとは(あるいは現地の人が東アジア人に接する態度を通して経験するのとは)、少し違うと思う。小説の構造も面白かったけど、それを構成するインドでのエピソードそのものも印象的でした。ちゃんと覚醒しているときに読み直したい。
江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』 ★★
江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』 ★☆
江國香織、長編には当たり外れが大きいなあ。これはわたし個人の意見としては外れ。
小さな動物や虫と話ができる幼稚園児の拓人の目に映る、カラフルでみずみずしい世界。ためらいなく恋人との時間を優先させる父と、思い煩いながら待ちつづける母のもと、しっかり者の姉に守られながら、拓人は大人たちの穏やかでない日常を冒険する。(Amazon)
長編だとどうしても起伏とコンセプトをはっきり伝わるように書いてほしいと思ってしまうのよね、エンタメ好きだから。
わたしは江國香織の書くいわゆる良妻賢母的な存在、経済的階層が中の上以上のやつ、が非常に苦手である。DVをあれだけ鮮やかに書きながらもフェミニズムっぽさはずっとないですよね、エッセイは読んでませんが。いや、皆無ってわけじゃないんだけど、「良妻賢母」が勝ってるから志向としてはないんだろうな、みたいな。
なお当事者間での合意のない浮気や不倫は倫理的にアウト派なので基本的に思想は合いません。それでも最新作の長編以外全て読んだのは、文章が上手いと思っているからである。
江國香織『犬とハモニカ』 ★★★
たーぶーんー二回目の読書だと思うんだけど江國さんは短編の文章が特に上手いね。
外国人青年、少女、老婦人、大家族……。空港の到着ロビーで行き交う人々の、人生の一瞬の重なりを鮮やかに掬い取った川端賞受賞の表題作。恋人に別れを告げられ、妻が眠る家に帰った男性の心の変化をこぼさず描く「寝室」。“僕らは幸福だ”“いいわ”――夫婦間の小さなささくれをそっと見つめた「ピクニック」。わたしたちが生きる上で抱え続ける、あたたかい孤独に満ちた、六つの旅路。(Amazon)
文章が上手いというだけで読む価値はあります。中身はまあいつもの感じです。
皆川博子『U』 ★★☆
皆川博子が初読の人は面白いかもしれないが、何冊か似たような話を読んできた身としてはいまいちだなあ。強制徴募からオスマントルコに馴染むまでの流れは面白かったんだけど、やっぱり似てるんだよな。半身というモチーフ、二人のそれぞれのキャラクターなど。これ読むなら『開かせていただき光栄です』『双頭のバビロン』の方が読み応えあると思うよ。
滅びゆくイスラム帝国の王の”貢ぎ物”として連行された美しい少年兵の叫びが奇跡を起こす。 舞台は、17世紀初頭、最後の輝きを見せるオスマン帝国。征服されたキリスト教国から、”貢ぎ物”のように王(スルタン)のもとへ連行された三人の少年たち。強制的に母国語を奪われ、イスラム教徒へと改宗させられながらも、故郷への帰還を諦めない日々――。 宦官による王の暗殺計画、側近兵の反乱など、内部から崩壊しつつあったオスマン帝国の終焉に巻き込まれた少年兵は、ある戦闘の途中で、「謎の岩塩鉱」に転落。暗闇を彷徨う。 同時に進行する物語の、もうひとつの舞台は、1915年、第一次世界大戦中のドイツ帝国海軍・Uボート。 与えられた使命は、連合国軍の通商船の破壊。無差別攻撃を続けても、戦況は悪化し続けた。 「Uボートは、一隻たりとも敵の手に渡してはならぬ。戦闘能力を失った艦は自沈せよ」 機密を守るための”掟”に従って、敵艦の攻撃を受けたUボートを自沈させ、イギリス軍の捕虜となったドイツ士官捕虜を救出する極秘の作戦が発動した。敵の機雷網や爆雷を潜り抜け、決死の作戦を完遂できるか――。 幻想小説の女王が紡ぐ、”数奇な運命”に翻弄された美少年たちの物語。(Amazon)
あらすじが長いな。笑 時代を飛ぶ歴史物だから仕方ないんだけど。佐藤亜紀と交流のある作家ですし、歴史的背景はちゃんとしてるんだろうのでそのへんは面白かったよ。
サンティアーゴ・パハーレス『螺旋』 ★★★★
すごく面白くて読みやすかった。デビュー作に全てが詰まってる、のお手本みたいな話だ。木村榮一氏の翻訳は愛してるんだけど、現代小説を翻訳する際は女性の台詞の言葉遣いを一新してくれたら嬉しい。
- 作者: サンティアーゴパハーレス,木村榮一
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2010/02/27
- メディア: 単行本
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絶妙な語り口、緻密なプロット、感動のラスト。大ベストセラー小説『螺旋』の作者トマス・マウドは、本名はもちろん住んでいる場所すら誰にも明かさない“謎”の作家。「なんとしても彼を見つけ出せ!」出版社社長に命じられた編集者ダビッドは、その作家がいるとされる村に向かう。一方、麻薬依存症の青年フランは、盗んだバッグに偶然入っていた『螺旋』をふと読み始めるのだが…。いったいトマス・マウドとは何者なのか?2つのストーリーが交錯する時、衝撃の事実が明らかになる!驚異のストーリーテラーが放つ、一気読み必至の長編小説。(Amazon)
ラテンアメリカ諸国の小説は頑張って読もうとしているんだけどスペイン本国ってあまり知らないのよね。600ページほどの一段組長編だけど、一段組とあってそこまでのボリュームはないし読み口も軽いので、新しめの(といっても2004年刊だが)スペイン小説を読みたいときに適している。マドリードでも仕事の面接に行くと面接官は残業代を支払わずに働く気があるのかを問うてくると言ってる。悲しいことである。
『キャンバス』を先に読んでから本書に来たのだが、こちらの方が断然好きです。プロットが練り込まれているというのと、ストーリーを語ることに重きをおいているのと、人の良さが前面に出ていて読後感が爽やかでした。おすすめ。
チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』 ★★★★
ツイッターで話題になっていたので読んだらめちゃくちゃ重くて打ちのめされたけどいい読書だった。初めての韓国小説が本書だったのは幸運だったのかもしれん。
取り壊された家の前に立っている父さん。小さな父さん。父さんの体から血がぽたぽたとしたたり落ちる。真っ黒な鉄のボールが、見上げる頭上の空を一直線につんざいて上がっていく。父さんが工場の煙突の上に立ち、手を高くかかげてみせる。お父ちゃんをこびとなんて言った悪者は、みんな、殺してしまえばいいのよ。70年代ソウル―急速な都市開発を巡り、極限まで虐げられた者たちの千年の怒りが渦巻く祈りの物語。東仁文学賞受賞。(Amazon)
「刊行から30年、韓国で今も最も読まれる130万部のロングセラー」だそうで。それもそのはず、内容がまったく古びていないんですよ。資本家と労働者と労組問題。現在進行系で安月給と長時間労働に悩まされている身にとっては人ごとではない。
まあとにかく読んでみるといいと思う、連作短編集の形式だから読みやすいし。最初の「メビウスの帯」は導入なので、よく分からなくてもリタイアせず先に進んでください。二つ目の「やいば」のラストには身を切られるようだった。その後はまた視点が変わって語り口が饒舌になる。わたしはあまり専門的なことは言えないけれども、韓国アイドルにハマっていることもありもっと色々読んでみたいと思いました。
ただ、心身ともに健康なときに読まないとそこそこのダメージを受けるから注意してください。
映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」
モノを作る人の真摯な姿勢にはつい泣かされてしまう。ファッションのことは何も知らないけど、一人のデザイナーのショーを年を追って見るのは楽しそうだね。いいドキュメンタリーだと思います、ジャンルがジャンルなだけあって絵面も美しかった。
ドリス・ヴァン・ノッテンが映画で喋ってたのオランダ語かー。ベルギーって仏語と何だっけ、ゲルマン系の言語は何もわかんねえな、と思い出せないでいた。そうでしたね。
マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』 ★★★★☆
バルガス=リョサを無事に読了できたのはこれが二冊目! つまりすごく読みやすくリーダビリティがあり現実寄りのストーリーである、何てったって史実だからな。おすすめです。ただし性犯罪を女性視点で描く胸糞なパートがあるのでフラッシュバック等に注意してください。
- 作者: マリオ・バルガス=リョサ,八重樫克彦,八重樫由貴子
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2010/12/25
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1961年5月、ドミニカ共和国。31年に及ぶ圧政を敷いた稀代の独裁者、トゥルヒーリョの身に迫る暗殺計画。恐怖政治時代からその瞬間に至るまで、さらにその後の混乱する共和国の姿を、待ち伏せる暗殺者たち、トゥルヒーリョの腹心ら、排除された元腹心の娘、そしてトゥルヒーリョ自身など、さまざまな視点から複眼的に描き出す、圧倒的な大長篇小説! 2010年度ノーベル文学賞受賞!(Amazon)
締めにあの場面を持ってきたところでいくらか胸糞だった気分が(胸糞には変わりないんだけど)落ち着きました、そこに描かれた犯罪に対する作者のスタンスが否定的だったから……。しかしつらいよ。ウラニアの筋は、本書の中では唯一フィクションで付け加えられた登場人物群ではあるけど、本当につらい。ウラニアは村を焼くべき。
ウラニアに変わって村を焼きたいくらい胸糞だったフィクション筋はさておくとして、小説としては大したものでした、ノーベル賞受賞作家に向けていうことでもないけど。解説の「固く閉ざされた心を他者に開いていくプロセス」とはとても思えませんけどね。あれは。一生清算できないよ。
パラゲールが(どこまで史実なのか知りませんが)「国の民主化が進み、何もかも変化しつつあることを印象づけるには、過去を自己批判するしかありません」とラムフィスに説いているところ、国外の慰安婦像に過剰反応する方々は読んだ方がいいんではないでしょうか。
現代社会における文学の役割を「異なる文化や価値観の出会いとそこから生まれる葛藤を表現することで、読者の人間性に対する理解を深め、良識や感性を養い、現実に起こっている問題を自信の問題として受けとめられるよう促し、“自分の主張のみが正しい”とする狂信主義へと人々が傾くのを阻止する」と、それが「現代に生きる作家としてのみずからの使命である」と著者は発言しているようですが、さすがのアウトプットだねとしか言いようがないです。小説としてもすげえ面白いし読みやすいもん。翻訳も良かったと思います。ラテンアメリカ小説読んでてそんなに悪いものに行き当たった記憶はないが。
『都会と犬ども』では祖国に焚書されてたけど、こっちはドミニカ共和国でどういう扱いなんだろうね。色々と指摘はあるみたいだが、まあ焚書はされないんだろうな。笑
映画「永遠のジャンゴ」
こないだ佐藤亜紀のスウィングしなけりゃ〜を読んだから見てみた。音楽成分は少なめです。フランスってかなり長い間ドイツ占領下にあったのねと今更……政治と切り離せるものなど何もありませんね。