綾辻行人『人形館の殺人』 ★☆
――は笑った。
微かに、喉の奥不覚で。
(怯えるがいい)
唇の端が僅かに吊り上がる。
(充分に、怯えるがいい)
急いではいけない。まず恐怖を与え、じわじわと追いつめ、そして……。
(そして……)
感想を書くに当たって「メタミステリ」という言葉の定義を調べていたんだが、……結局よくわからない。幻想的な要素が入ってるってこと? 誰か教えてください。本作は館シリーズの中でも異質で、賛否両論評価が分かれる。これがメタミステリなのか微妙に本格なのか、さっぱりわからない。確かに今までの本とは毛色が違ったけれど。
はっきり言ってしまうとかなり拍子抜け。前作が凝っていて、すっかり騙されたのもあり、え? これが結末? どんでん返しは待っていないの? と別な意味でびっくり。かなり初期の段階から大筋はわかったし……トリックが鮮やかに解き明かされる場面を望んでいた私にとって、期待はずれと言ってもいいかもしれない。それとも犯人をわかった上で楽しむものなの? 疑問で一杯だ。
飛龍想一は、母と共に、亡父が遺した京都の館に越してきた。邸内には体の一部が欠けた奇怪なマネキンが置かれており、近所では子供の連続殺人が起こっている。時折蘇る幼少の記憶、そして向けられる悪意――赤く染まったマネキン、玄関の石ころ、自転車のブレーキ、――忍び寄る殺人者――。
一部が欠落したマネキン、ときいてすぐ『占星術殺人事件』が頭を過ぎった。なんてったって島田潔。案の定だった。辻井雪人なるペンネームの作家を出してきたのもおもしろい。言葉遊びがお好きなようで。
このオチがミステリとしてアウトかどうか、といったら私はセーフだと思う。でも、普通ではない……これ以上はネタバレになってしまう。
あの悪意はどうみても外から向けられたものじゃないと感じた。犯人は想一以外に考えられなかった。密室も、彼なら関係ないし。トリック自体はすごいものではない。ただ、二重人格ではなく三重になっていたとは驚いた。島田は実際の島田だとばかり……あれまでも造り上げられた人格だったのか。希早子は襲われた時そりゃもうビビっただろう。
異質と呼ばれる所以は勿論この犯人だろうが(語り手に幻視されても読者は信じるしかない)、他にもある。この人形館は中村青司の設計ではないのだ。次に、島田が前後の手紙でしか出てこない。彼が好きなので結構ショックだった。ううん、文庫の裏表紙「名探偵島田潔と謎の建築家中村青司との組み合わせが生む」っていうの、間違ってやないかい? 番外編っぽい。
島田の代わりに探偵役を務める架場という人物、彼が残す曖昧さが怖い。まさか実は犯人……? でも希早子を襲ったのは確かに想一。うーむ。