Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

三浦しをん『むかしのはなし』  ★★★

むかしのはなし
むかしのはなし
三浦 しをん
「だれかを好きだった記憶もなくなるぐらい生きて、俺が死んでも気づくやつが一人もいないほどになったら、そのときやっと、俺は本当に自由になれるんじゃないかと思うんだ」

 三浦しをんの新刊です。嘘です。二月の本だから。しかし私にとっては充分新しい範囲内。直木賞にノミネートされて度肝を抜かれました。三浦しをん直木賞……取れなかったけど。まあ、いつか取ってくれたら面白いと思う。
 彼女の本を読むときには、エッセイでのはじけっぷりを捨て去らなければやっていけない。びっくりするほど違う。『格闘する者に○』はそういうノリだけど、本作や『私が語り始めた彼は』なんかはかけ離れてる。
 隕石がぶつかるという悲劇をひかえた地球で、むかしばなしが現代風になって語られる短編集。連作短編集、かな。ところどころがリンクしている。登場人物のちょっとした言動が気になったり。初めのうちはただのお話なんだけど、段々と悲劇が形どられていくの。隕石が衝突した後は、本当にむかしばなしになってしまうのだなあと淡い絶望感。
 ラブレス:かぐや姫。ホストの俺は逃げながら、とある女性にメールを送っている。(これは某漫画を意識しているのではと思われるがどうか)
 ロケットの思い出:花咲か爺。昔飼っていた犬・ロケットを思い出しながら、俺は空き巣に勤しんでいた。ある日入った先は、高校の同級生の部屋だった。
 ディスタンス:天女の羽衣。あたしの家には、鉄八というパパの弟が居候していた。セックスしたのは14の時だった。
 入江は緑:浦島太郎。舟屋に住むぼく。久しぶりに村に帰ってきた修ちゃんは、カメちゃんという美しい女性を伴っていた。
 たどりつくまで:鉢かつぎ。深夜に、タクシー運転手をしている私が乗せたのは、顔に包帯を巻きつけた女性だった。
 花:猿婿入り。私は行きがかり上、元彼の友達・サルと結婚してしまった。彼がついてきてほしいと言った転勤先はものすごく遠く……。
 懐かしき川べりの町の物語せよ:桃太郎。みなに恐れられているモモちゃんと一緒に過ごした夏休み、モモちゃんの彼女・宇田さんと一つ下の有馬、ぼくの四人はとある計画を立てる。
 全てが一人称で進む。語り口は淡々としていて、強い思いがにじんでいる文でさえ、激しくはない。何となく湿っぽい。「死ぬことは、生まれたときから決まっていた」んだから、当たり前といえばそうなんだけど、それをきちんと認識できるまでが大変なのよね。私も今だって、「私だけは」と思ってるし。
 一番好きだったのは、「たどりつくまで」かな。最後の最後が素敵でした。うーんでも、全体的に素敵だったと思うよ。三浦しをんの本は、他のを差し置いてとりあえず一番に読まないと気がすまないくらい、ファンの私が言うことだけれど。
 カバーを取るとまた良いらしいね。図書館派なので書店で確かめてきます。