Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

梨木香歩『沼地のある森を抜けて』  ★★★☆

沼地のある森を抜けて
沼地のある森を抜けて
梨木 香歩

 ――だから、個、というものが自分の行動を全て自分の意思決定によって行っているという考えがそもそも眉唾もの、だと?

 ――あらゆる思想や宗教や国の教育システム、そういうものが、自分を乗っ取ってゆく可能性について。もっとわかりやすく、洗脳、といってもいい。あるいは、すでに乗っ取られている可能性について。自己決定、ということが幻ならば、せめて、自ら、自分はこの「何か」に乗っ取られてもかまわない、そう決断することが、最後に残された「自己決定」なのではないか、と。


 梨木香歩の集大成であるとかかっこいいこと言えればいいんだけど、私は彼女の著作を四冊ほどしか読んでいないので無理。それでも、壮大なスケールである命というテーマを、彼女独特の雰囲気でうまく書ききったのではないかと思う。素敵だったもん(とてつもなく大雑把な感想)。『家守綺譚』みたいに、普通の世界に生きていながら不思議と隣り合わせ。梨木好きなら好きだろうな、当たり前だけど(笑)
 台詞がかぎかっこではなく、ダッシュに続く形で表されている。全て。地の文と馴染んで、ひっそりというか、静かな、何とも言えない空気を演出。誰がやってもこうなるんじゃないんだ、梨木香歩だからこうなるんだな。
 始まりは「ぬか床」だった。先祖伝来のぬか床が、呻くのだ。変容し、増殖する命の連鎖。連綿と息づく想い。呪縛を解いて生き抜く力を伝える書下ろし長篇。 あらすじは忘れないように一話(章?)ずつ書きたいんだけど、ネタバレですのでAmazonから引っ張ってきた。
 膨張し続けている宇宙にポツンと在る地球、そこで生きるものたちはさらにちっぽけななりに一生懸命なのに、“個”なんてないのだよと言われてしまったらどうだろう。風野さんのように叫んでおくべきかしら。地球がいつまで在るのかは分からないけれど、できるだけ永く生きていければいいね。 

 

 ――世界は最初、たった一つの細胞から始まった。この細胞は夢を見ている。ずっと未来永劫、自分が「在り続ける」夢だ。この細胞は、ずっとその夢を見続けている。さて、この細胞から、あの、軟マンガン鉱の結晶のように、羊歯状にあらゆる生物の系統が拡がった。その全ての種が、この母細胞の夢を、かなえようとしている。この世で起きる全ての争いや殺し合いですら、結局この母細胞を少しでも長く在り続けさせるために協力している結果、起きること。単なる弱肉強食ということではなく。全ての種が、競い合っているような表面の裏で、実は誰かが生き残るように協力している――たとえその誰かが、酵母、とかであっても。生物が目指しているものは進化ではなく、ただただ、その細胞の遺伝子をいきながらえさせること。



 フリオのために:叔母から受け継いだぬか床。中から卵が湧き、そのうちの一つが孵り、でてきたのは男の子の幽霊みたいなもの。幼馴染のフリオが幽霊を見て、これは光彦(名前のせいでいじめられていたフリオを救った英雄)だと叫んだら、彼は光彦になる決心をしたようだった。結局フリオは妻と別れ、光彦をつれて出て行く。
 カッサンドラの瞳:次に孵ったのは気味の悪い和服の女。彼女はカッサンドラと名乗った。カッサンドラはどうにも嫌な女で久美は困る。そして、生前時子叔母と交流があった、風野さんに会いに行く。
 かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話Ⅰ:「僕」は「光彦」なのかな? パンフルート
 風の由来:風野さんが襲われたらしいというので、久美は彼のアパートへ。そこにはケイコちゃん、マナブくん、アヤノちゃんと名前が付けられた変形菌が。住民から苦情がくるので、それを放すことに。そして風野さんは、久美に島へ行くように薦める。久美は家で叔母の日記を発見した。
 時子叔母の日記:日記は叔母が死ぬ三日前まで続いていた。やはり卵があらわれたらしい。そんな時、フリオは卵から生まれたんだと久美に告白。久美はこれ以上ぬか床に支配されたくないと、島に返しに行く事を決めた。
 かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話Ⅱ:ロックキーパー。
 ペリカンを探す人たち:島に渡った久美と風野さん。島民の車で住所の家の方へ連れて行ってもらうが、風野さんは足を捻ってしまい、フェリーで出会った不思議な男性・富士さんのお世話になった。富士さんはここが自分の先祖の島だと言い、久美に上淵家の当主だった安世の手記を渡す。
 安世文書:安世の孫・重夫は、鏡原家の娘・カヤと島を出て行った。この二人が久美の祖父母にあたり、富士さんにとっては父母となる。大潮の今、鏡原の沼にゆかりのみんながやってくると、富士さんは話す。
 かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話Ⅲ:ロックオープナー! シの発見。
 沼地のある森:ぬか床を沼に返した。

 もう無理だった(笑)
 引用部分が全てをあらわしているということで、ここはひとつ。