Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

本多孝好『MISSING』  ★★★

繊細な視線で描かれた物語が、心の奥底に潜むミステリアスな風景を呼び覚ます…。小説推理新人賞受賞作「眠りの海」ほか「祈灯」「蝉の証」など、4作品を収録した処女短編集。(Amazon

 たまに読み返すんだけど、この頃の本多さんの短編はサブカル男子の小さなファンタジーって感じでとても輝いている(褒めてる)。まとまりもいいし。特に「瑠璃」はファンタジー性が強く、ラノベ読者層にもウケそう。本多さんは長編より短編、長編っぽくするなら連作短編の形の方がうまいよなと思う。最近は長編をたくさん書いているようなので、ご本人としてはそっちを強化しているのかしらね。
 ただねー『at Home』で決定的となった家父長制&ミソジニーが、やはり初期からにじみ出ているのよね。「彼の棲む場所」が明らかにそうでしょ。最新作は女性ジャーナリストと少女がメイン登場人物のようだけど、ここどうにかしないと、女性を書くのは難しいのではないかと思う。セカイ系男子を主人公に据える分には、まだ読めるのだが。
 文体としてはとても好きで、フェミニストになる前は大好きだったから、読むと悲しくなってしまう。でも『正義のミカタ』あたりから、『MISSING』や『FINE DAYS』の軽めな口当たりではなく、(伊坂幸太郎が梶を切ったように)自分が表現したい価値観や問題意識を書こうとしたり、エンタメにチャレンジしているのは伝わるので、そこは応援したい。