Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

森絵都『風に舞いあがるビニールシート』  ★★★★

風に舞いあがるビニールシート
風に舞いあがるビニールシート
森 絵都
「犬は、私にとっての牛丼なんです」(犬の散歩)

「自分の子供を育てる時間や労力があるのなら、すでに生まれた彼らのためにそれを捧げるべきだって。それが、富める者ばかりがますます富んでいくこの世界のシステムに加担してる僕らの責任だって」
「責任?」
「もしくは、贖罪」(風に舞いあがるビニールシート

 待望の新刊! とはいえ、この前エッセイが出たばっかりなんだけど。本書は様々な職業に就く人たちの短篇集。贔屓目を抜いても面白かった。完全に児童書ではなくなってしまいましたね。そろそろ中学生あたりを書いてほしいなあ、なんて……。私が見たいのは富士谷要一だけかもしれないけど(笑)
 器を探して:パティシエ志望だった弥生は、ヒロミの作る素晴らしいケーキに魅せられ彼女の秘書となった。失恋した八つ当たりでクリスマス・イブに出張させられた弥生は、プディング用の器を探して岐阜をさまよう。
 犬の散歩:主婦である恵利子がホステスをしている理由は、犬だ。行き場のない犬の里親になるボランティア活動に、出費がかさむのだ。今はビビとギャルという名前の二匹をあずかっている。
 守護神:三十代フリーターの裕介は、大学の二部に通っている。仕事や勉強で時間がなく、このままじゃ単位を落としてしまう。二文の守護神とも言われるレポート代筆の達人ニシナミユキに頼みに行くのだが……。
 鐘の音:二十五年前、潔が仏像修復師をしていた頃。潔は師匠の松浦、同輩・吾郎の三人で依頼先の山寺に赴いた。そこにあった不空羂索観音像に、潔は強い思い入れを抱き……。
 ジェネレーションX:通販情報誌の商品にクレームがついたため、社員の健一と販売元の石津は謝罪のために、一路宇都宮へ。車内で石津は携帯で電話しまくるのだが、健一はどうも内容が気になってしまう。
 風に舞いあがるビニールシート:里佳が国連機関に転職する際、面接官だったエド。二人は恋人同士となり結婚に至るのだが、エドはフィールドに出ずっぱりで夫婦の時間はほとんどなく……。