Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

佐々木俊介『模像殺人事件』  ★★★☆

模像殺人事件
模像殺人事件
佐々木 俊介

「しかし啓作、難題は何だいだよ。誰が殺したか? いかに殺したか? 俺が考えるに、問題はそんなところにはない。
 俺がお前に委ねたい設問はただこれひとつさ。その屋敷でいったい何が起こったのか?」


 ここのとこラノベばかり読んでいた反動か、このようなお堅いレトロな? 文章が読みにくくてしかたなかった。はじめの30ページくらいは相当時間かかったし、返却しかけた。でも、一章にさしかかって舞台が変わり、慣れてきてからは面白かった。手記が挿入されると読むの大変なんだよねー。その筆頭が占星術ですよね。
 気になったのが、段落の終わりにリーダーを使うと必ず句点をうたないところ。これがまた何とも言えないものを醸し出しているというか、記号の使い方って大事。
 木乃家の長男・秋人が八年ぶりに帰郷を果たした。大怪我を負ったという顔は一面包帯で覆われている。その二日後、全く同じ外見をした“包帯男”が到着、我こそは秋人なりと主張する。二人のいずれが本物たらんという騒動の渦中に飛び込んだ大江戸孝平は、車のトラブルで足止めを食い、数日を木乃家で過ごすこととなった。日ごろは人跡稀な山中の邸に続発する椿事。ついには死体の処理を手伝いさえした大江戸は、一連の出来事を手記に綴る。後日この手記を読んだ新藤啓作は、不可解な要素の組み合わせを説明付ける「真相」を求めて、ひとり北辺の邸に赴く。(カバー折り返し)
「ホワットダニット」って言葉は始めて知りました。ミステリ通への道のりは遠い。現代の日本作家しか読んでいないからなあ。"what done it?"ってことなの?
 手記を読む限り、一応の決着はついている。二人の包帯男の正体は? という問に答えは出されている。しかし大川戸の手記がTの元に送られ、友人・啓作と二人で寝台探偵としゃれ込む……そこからは一気。その屋敷でおこった真実が知りたいじゃないか。
 著者にとって、七年ぶり二作目の本らしいね。横溝作品を読んでいればもっと楽しめるみたい。どことなく怪しげで舞台は昭和か? って文体・雰囲気なんだけど、携帯やPCが普通に登場します。やっぱり「別世界」なのかな、あの屋敷。
 結末も期待を裏切らない(こういうの好き)。本のイメージと合ってる。

 

 手記で、第二の包帯男は圭介だったという時点でほほーと思っていたのに、それどころじゃなかったね。
 冒頭の木乃家の場面は、茂樹が訪ねてくるところだったんだ! 狙い通りに騙されました。そして「二人」は秋人と圭介だったのね……この後、瀕死の秋人は吾郎と出会い、吾郎が第二の包帯男として屋敷に向かった、と。ミカと会っているところを美津留に殺され、秋人も心配になって来たはいいものの勝手に倒れ……悲惨。睦夫→美津留、秋人→ミカで一芝居打ったのか。
 家族総入れ替え、か……どっかで読んだな。あれも血みどろで終わったな。実の息子が自分と同じように入れ替わろうとしていることに気づいた父は、どんなに驚いても足りなかったろうな。血は争えない。睦夫はご愁傷様。
 ミカは生きてたし知也の手術は成功したし、よかったね! 邪悪な事件の結末といい具合にマッチして後味を良くしている。毒を求める人を満足させて、ハッピーエンドが好きな人も救われたんじゃないかな。