Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

北森鴻『狐罠』  ★★★

狐罠
狐罠
北森 鴻
「時間の流れとは、果たして平等であろうか、と。やさしさは必要ありませんが、時の流れだけは誰に対しても、どこに対しても平等でなければならない。(中略)
 けれど時間は本当に平等だろうか。もしかしたら絶対主たる存在にも好き嫌いがあって、本来時のうねりを超えて我々に残して置くべきものを、しばしば消し去っているのではないか」

 骨董品業界での騙しあいミステリ。でもこの展開はスリルとショック満載でサスペンスっぽいけど。仕掛けが多すぎて把握できないよー。裏の裏の裏がある、という感じでくらくら。博物館に行きたくなる本。
 店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商う「旗師」宇佐見陶子。彼女が同業の橘董堂から仕入れた唐様切子紺碧碗は、贋作だった。プロを騙す「目利き殺し」に陶子も意趣返しの罠を仕掛けようとするが、橘董堂の外商・田倉俊子が殺されて、殺人事件に巻き込まれてしまう。(Amazon
 骨董品のことなど何一つ知らないし、博物館に行く趣味も残念ながらない。けれど楽しめました。新しい世界を知るのはいいことだし、それが面白いミステリと絡まっているなら文句はない。
 主人公が仕掛けるのは、贋作を売りつけてやろうという目利き殺し。しかしこの手のことはなかなか上手くはいかないもんですよ。善悪がはっきりしないスタンスを垣間見せている作者のもとでは、特に。なので恐る恐る読み進めていった感がある。怖いよー。
 これはシリーズものらしいですね。陶子、鄭、プロフェッサーD、潮見老人、硝子、そこら辺は次にも登場するのかな? 私は陶子と硝子のこわれものコンビがすごく好きなのだが。三十過ぎた女性同士の実も蓋もない会話、ってのが。若竹七海に少し通じるところがある。  陶子が目利き殺しを仕掛けたら、潮見老人の裏切り? が発覚。橘薫堂へ乗り込んだ壊れ物コンビは痛い目にあい、殺されるよこいつら……と思ってたら犬猿コンビが登場。まだ救われたな。それにしても、細野慎一が鄭だったとはね! 鞠絵は妹か! それは全く思い至らなかった。