Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

加納朋子『沙羅は和子の名を呼ぶ』  ★★★

沙羅は和子の名を呼ぶ
沙羅は和子の名を呼ぶ
加納 朋子
 冷たい態度や気のないセリフは、常に諸刃の剣だ。相手と同じだけ、自分も傷つき、不幸になる。馬鹿げた繰り返しだった。もはや夫と自分とが、決して同じ方向を見ないのだと、核心するための手段でしかない。(天使の都)

 加納朋子は『ささらさや』から入ったんだけど、主人公の性格に苛々してしまいあまり良いイメージがなかった。次に『コッペリア』を読み、見事に騙された思い出が。結構好きだった。しかし自分から借りるほど好きではなく、これから先読むことはないかと思っていたのだが、母が友達に薦められたらしくうちには現在加納朋子の本が六冊もあります。そんなわけで手を出してみたら、面白かったぞ。定評のある方ですものね。
 黒いベールの貴婦人:写真が趣味の僕・優多が知らずに入りこんでしまったのは噂によって潰れてしまった芹沢病院。そこには麗音という女の子がいて、優多を待っていたのだと告げる。
 エンジェル・ムーン:エンジェル・ムーンという、水槽がある喫茶店のマスターである伯父が、ここには幽霊がくるのだという。亡くなった伯母の日記帳に記されている会話と情景を、そっくりそのまま繰り返す……。
 フリージング・サマー:ニューヨークに留学中の真弓ちゃんの部屋に住んでいる知世子。ある日、伝書鳩が「コロサナイデ」と書かれた紙を持ってやってきた。
 天使の都:夫が単身赴任している、バンコクを訪れた麻理子。庭園でワンナという女の子と知り合った。
 海を見に行く日:ふらっと実家に帰ってきた娘が旅行するというので、母は結婚前に自分も同じ場所に行ったのよと話す。
 橘の宿:信濃の国で、野宿をしようとした一人の若者は一軒の小さな家を見つけた。泊めてくれと頼むと、中から出てきたのは美しい女。
 花盗人:おばあちゃんの家の庭は花畑のよう。そのせいか、よくドロボーが現れる。庭に穴があいていたこともあった。反対に、花が増えていたこともあるのだ。
 商店街の夜:さびれた商店街のシャッターに、一人の男が絵を描きはじめる。一ヵ月半の後、商店街の朝と夜は美しい雑木林に変わっていた。
 オレンジの半分:双子の姉妹・加奈と真奈。真奈は、姉に男を紹介された。会うことになったのだが待ちぼうけを食わされ、ドーナッツ屋に入る。すると、通りの向こうを加奈らしき人物と紹介された男が一緒に歩いていて……。
 沙羅は和子の名を呼ぶ:和子は引っ越してきた家で、沙羅という少女と友達になった。和子の母・佐和子にその話をされ、父・一樹は昔付き合っていた女性を思い出す。
 日常の謎を書くことが多いみたいだけれど、本書はちょっとしたファンタジーっていうか不思議な話も入ってる。『花まんま』みたいな。一人称ばかりですんなり読めちゃった。
 天使の都、ティプニコーンみたいな青年とお知り合いになりたいです。幸せになれそうだ。商店街の夜みたいな夢のある素敵な話は大好き。オレンジの半分には書き方にかなり感動! そうか、どれがどれを差しているか読み返してみると一目瞭然……。沙羅は~、取捨選択は難しいよね。私は迷いに迷ってどっちかを選ぶと後悔する。あっちにすればよかった、と。悔やんでばっかりじゃどうしようもないと分かっているんだが、そうはいかないのが常。ああ、優柔不断!
 ちょっと若竹七海に似ていると思った。人の悪意をさらっと書いてしまうところが。若竹七海の方が毒が強いものの、加納朋子も結構やるなあ。女性の喋り方にかなりの差があるけどね。『ななつのこ』はどことなく『ぼくのミステリな日常』を連想させる。若竹作品が好きなので、彼女の本ももっと読んでみようっと。