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Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

百田尚樹『風の中のマリア』  ★★☆

「女だけの帝国」が誇る最強のハンター。その名はマリア。彼女の身体はそのすべてが戦いのために作られた。堅固な鎧をまとい、疾風のように飛ぶ。無尽蔵のスタミナを誇り、鋭い牙であらゆる虫を噛み砕く。恋もせず、母となる喜びにも背を向け、妹たちのためにひたすら狩りを続ける自然界最強のハタラキバチ。切ないまでに短く激しい命が尽きるとき、マリアはなにを見るのか。

 これは……これは小説ではないな! 小説ではない! この本から判断するとこの人は小説家ではないよ! 探偵ナイトスクープの放送作家だったということだが、その番組を見たことはない。こういうものを書く人がどんな番組を作っていたのかというのは気になるところだ。
 んでこれが何がというと、オオスズメバチの生態を小説タッチで書いた何か、ということになりますね。蜂生態萌えの人は萌え転がると思う。私は萌え萌え言っておきながら知らないことも結構あったし、ものすごい萌えた。蜂や蟻は百合の宝庫ですよ。これが百合でなくて何なの。
 無精卵はオス、有精卵はメスになるってとこまでは分かっていたけど、同じ腹から生まれていながら、オスは女王蜂と交尾した父親のゲノムを持っていないというとこにまで理解が至っていなくてですね! そうか! 女王蜂は交尾相手の遺伝子を持ったオスって産めないんだ! ですよね! 女王蜂の殺された、あるいは追い出された巣では働き蜂が無精卵を産み始め、その卵から生まれた(必然的に)オスはようやく、二分の一の確率で女王蜂と交尾した父親の遺伝子を持っている……すごい萌える……ちょっと意味がわからないくらい萌えますね……。息子は自分の遺伝子しか持ってないんだよ。女王蜂は衰えると新世代の女王蜂&種付け役のオスを産み、けれど近親相姦は行われない。オスはどっか別の「帝国」に飛び去って交尾しなきゃならない。交尾しようとしてもその巣の働き蜂に攻撃され、弱い者は淘汰される。たいへんな人生だなあ。
 いやー面白かった。さらっと触れられていたカゲロウの一生もよかった。昆虫の生態を素直に書くだけで一応エンタメの形にはなります、というのがよく分かった。……だってこの作者小説書こうとしてないじゃんよ!笑 どうなの? これでいいの? じゃあ何がダメなのって言われると困るけど蜂同士の間でゲノムとか言ってるのよw 「私たち女王を追い出して子供を産まないと、だって女王から生まれたオスは25%のゲノムしか共有できないけど、自分で産めば35.7%なのよ!」、そして説明のための家系図。それ、テレビのポップアップですか? (人化するという意味の)擬人化を避けて昆虫譚を貫きたいのか愉快なノンフィクションを書きたいのかはっきりしてよ!笑
 まあとても楽しんで読んだんですけどね。どうでもいいけど「その場で肉団子にした」というフレーズには吹くね。
 蜂の生態萌えを充足させるために読むには最適である。しかし、小説として読んでも面白くはないのではないか。私は前者なので断言はできないけど。この作者の『永遠の0』ってのはタイトル聞いたことあるんだよね……話題になってたんだと思うんだが、そっちの本は小説なのでしょうか?
 あ、分かった、脚本だこれは。ウィキペディアの引用でお粗末だけど「脚本では文学的表現や美文は要求されない。脚本によって実現されるべき映像やシーンを思い浮かべ、その見たままを書き写したような映像描写がよいとされる」、まさしくこんな感じだ。文章へのこだわりが感じられないと、どうしても小説には見えない。
 とか言いつつ、文章に多少の粗があってもストーリーが面白ければ、何も気にならないんだけどなあ。何が違うのかなあ。どっから読んでも、小説を目指している風には見えないよなあ。という意味合いの☆評価です。