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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

島田荘司『異邦の騎士』  ★★★★☆

異邦の騎士 改訂完全版
異邦の騎士 改訂完全版
島田 荘司

「とにかく出ていってくれ! 一人になりたいんだ! 良子と、良子の思い出と一緒に、ここにいたいんだ!」
 すると御手洗は、悲し気にこう言った。
「解ったよ。じゃ行くが、君はきっと僕に謝りたくなるだろう。そうしたら、恥ずかしがらなくていいからね。僕は今夜も明日も、ずっと部屋にいるよ」


 ぎゃーーー!!!
 トリックも充分驚きだったけど、何よりこの人物への驚きは計り知れない。そうだったのか……熱い男だね……いつから……そうだったのか……。ここらへんはネタバレで語ろう。島田荘司、好きだ(今更)。
 物語は、目が醒めてみるとベンチの上だった、という端的な書き出しではじまる。記憶喪失になった語り手と、若い女・良子は運命的な出会いをした。二人で暮らすうちに少しずつ明らかになる、喪われた過去。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活に忍び寄る新たな魔の手。御手洗潔の最初の事件。(あらすじは諦めて文庫の裏から抜粋)
 ミステリというより、恋愛要素が強い。『占星術~』では割と綾辻行人みたいな登場人物=記号っぽいものを感じたけれど、本作は全然違う(当たり前っちゃ当たり前だが←読めば解る)。語り手と良子の楽しそうな姿は和むし、雲行きが怪しくなると心配してしまう。今の幸せを壊したくないという二人の気持ちはよくわかる。でも、過去はそのままにしておけないし、新たな魔の手が、ねえ……。
 本作では、探偵役の御手洗は立派に探偵だが影は薄めだ。演説好きでギターの腕はプロ並の狂った(失礼)占星術師という印象。しかしばっちり笑いを誘ってくれた。もうあんた最高だよ。文庫の144ページあたりからは公共の場で読むのをお薦めしない。
 ご都合主義といってしまえばまあそうだが、これだけのトリックを考え出した犯人しいては島田氏は素直にすごいと思うなあ。犯人が芸術家、ってのは暗に自分自慢かしら?笑
 これもまた、改訂版らしい。後書きではかなり書き直したらしいことを言っている。くー、どっちを読んでも両方読みたくなるんだろうなあ。一文一文比べてみたくなる衝動に駆られた。やらないけど。

 

 石 岡 君 ! !
 衝撃の出会い。衝撃。衝撃。石岡君はこんなに熱く、漢らしい男だったのか。びっくり。良子への愛情がすごい。石岡君。私は驚きました。
 いつも石岡君が語り手だから、今回だけは例外なのかなあとばかり思っていた。御手洗が孤独発言をしたのは不思議だったが、石岡君と出会う前の話だろうと決め付けていた。そして敬介=石岡和己ということには全く気付かず。だってまさか、ねえ! 占星術では御手洗に振り回されっぱなしの、あの可愛い助手が、ねえ! は~。異常なまでの書き込みには頷ける。だって、重要人物だもの。あー本作をシリーズの最初に読んだらよくないな。どうせならびっくりしておくべきだな。
 生きてれば何が起こるか分からないから、記憶喪失を利用されて犯罪者に陥れられそうになる、なんてこともあるのかしらん。いやいやいや。でも自分の過去がすっぽりと抜けてしまったら、それらしいものに飛びついてしまうのだろう。縋りどころが欲しいだろう。石岡君てば、波乱万丈な人生を歩んでいたのだね。
 島田荘司は手記を入れるのがお好き? 私まだ三冊目なんだけど。