Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

伊島りすと『ジュリエット』  ★☆

ジュリエット
ジュリエット
伊島 りすと

 血のようだった。
 貝の血だった。
 それが地面に向かってぽとぽとと滴り落ちている。
 健次はその姿をじっと見つめた。
 濡れた糸に向かってカミソリの刃を近付けようとしたとき、また風が吹いてきた。
 揺れる、と思った瞬間、すっと落下した。

 いつだったか、装丁の綺麗な写真に惹かれて彼女の『飛行少女』を読んだ。刊行されてすぐだった気がする。内容は広島の原爆が絡むSFホラーだったが、結末はどうだったのか全く覚えていない。割と面白かったのだが。やはり記録をつけるのは大事だなと思う。自分であらすじを書くとなると、嫌でも読み直さなくてはいけないから。まあ、大抵はアマゾンのレビューをパクるんだけど。
 小泉健次は娘ルカ・息子洋一を連れて、孤島へと引っ越した。バブル時代の遺物である大きなレジャー施設管理の仕事を得たためだ。三人は「見るとのりうつられる」と言われる貝の魂抜けを見てしまってから、不気味な現象に悩まされることになる。押し寄せる虫の大群、浴室にあらわれた幽霊、どこからか入り込んだ死んだはずの子犬や友達そして妻……。
 全体的に稚拙で読みにくい? と思ったのは気のせいではなく、これは伊島りすとの処女作だった。ホラー大賞を受賞し、デビューしている。ネットでの評判も良くはない。
 とはいえ面白くないわけではないのだ。私が怖がりなだけかもしれないが、魂抜けの部分はぞくぞくしたし、幽霊とか無理だった。お風呂に入りたくなくなるからやめてほしい。あと、ルカの自傷癖をはじめとしたそういう描写は真面目に気分が悪くなってしまった。実際本を閉じた。自分も直接味わえそうなもの(特にリスカ等)は生理的に受け付けない。ただ殺されたり死んだりするだけ、もしくは脳みそとか眼球とかさらにグロテスクなものなら大丈夫なんだけれど。
 最終的に何が言いたかったのか、いまいちはっきりしない作品だったなあ。家族の大切さではないし、ルカの初恋でもなさそうだし、生と死についてそこまで深く掘り下げているわけでもないし……。リストラいじめ自傷虐待など、現代的な問題を多く取り扱っているけど、別に……。ここらへんが低評価の原因か。
 私が読んだのはハードカバーだが、文庫化されるにあたってかなり書き直されているらしい。しかも大分わかりやすくなっている模様。これから読む方は文庫の方がよさそうですね。