Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

重松清『その日の前に』  ★★★★

その日のまえに
その日のまえに
重松 清

「よくわかんないけど、『ごめんな』って感じなんだよ。相手がシュンだからっていうんじゃなくて、同い年ぐらいの奴が死んだら、俺『かわいそう』とかの前に、『ごめんな』って言いそうな気がするな」(潮騒)

「俺みたいなバカ置いといて死ねないっしょ。社会に迷惑だっつーの、無責任だっつーの」(ヒア・カムズ・ザ・サン


 重松さんの作品の中で、一番気持ちよく読めた本かもしれない。フィクションにおいて、死をモチーフにするよりも重いものが山ほどあるってことを重松さんに教わった。いじめやリストラや家庭内不破や差別、その他もろもろ。死よりも近くにあってリアルだから。本書では、それらはあまり出てこない。何気ない日常を襲う死。だからこそ痛ましいのだろうけど、読後感は心地よく、爽やかな感動が得られる。
 てっきり長編だと思っていたら、短篇集だった。ブランチの「てっちゃんのブックナビ」でべた褒めされていたのは見ていたのだが、帯にまでそれが書いてあるとはびっくり。最後の三篇は繋がっていて、あらすじがネタバレになってしまうためこれから読むひとは避けた方がいいかも。
 ひこうき雲:いつも怒っている、嫌われ者のガンリュウこと岩本隆子。そんな彼女が病気になり、遠くの病院に入院した。難しい手術を受けるらしい。クラス全員で色紙を送ることになったが、友達もいなかったガンリュウに何を書いていいのかわからない。
 朝日のあたる家:ぷくさんは高校教師。中学生の娘・明日奈と二人暮しだ。ぷくさんの夫は三十五歳の時、心不全で突然この世を去った。朝ジョギングをしていたら、昔の教え子・武口と偶然行き会い、同じマンションに同じく教え子だった入江睦美が住んでる事を知る。
 潮騒:今日、余命三ヶ月の宣告を受けた俊治。電車に乗ってぶらり、小学校の頃二年だけ住んでいた港西にやってきて、同級生だった石川の薬局を訪ねた。近くには『かもめ海水浴場』があり、当時、俊治たちの友達・オカちゃんが一人死んでいた。
 ヒア・カムズ・ザ・サン:トシは母親と二人暮しだ。ある夜、ご機嫌で帰ってきた母ちゃんはストリートミュージシャンのカオルくんの話をする。そしてついでみたいに、今後胃カメラを呑もうと思っている、と告げた。
 その日のまえに:お互い二十四歳の時に結婚した、イラストレーターの僕と和美。二人の男の子がいる。新婚の頃、駅の近くのアパートに住んでいたのだが、二十年後になって再びその地に降り立った。和美の余命は長くない。
 その日:僕たち夫婦は、和美が亡くなる日を「その日」と呼んでいて、その日に向けて準備をしてきた。子供たちには隠していたのだが、ついに言わなければならなくなってしまった。
 その日のあとで: 和美宛てのダイレクトメールが、たまに届く。僕は、「その日」が和美が死んだ日ではなく、もっと別のところにある気がしていた。
 最後まで読むと、少し嬉しい仕掛けが。……悲しくもなるんだけど。本として宣伝されているのは、やはり「その日のまえに」~「その日のあとで」の話。幸せな家族に突然現れた、死の影。余命が宣告されていることがその人にとって良いのか悪いのか、私には判断しかねるけれど、良いことも悪いことも両方あるんだろう。死への準備が出来る人なんて滅多にいない分、死に向かう実感が迫る。ただそれが短すぎると、とてつもなく辛い。死へ向かい、死が訪れ、死が去るまでを丹念に描いている。
 それでも私の心に一番響いたのは、「ヒア・カムズ・ザ・サン」。私は未婚で、子供もいない。でも親はいる。だから、子供として親が死んだらどうなるのだろうか、というのが他よりも想像しやすいのだ。その恐怖をたまに考えるし。願わくば将来は夫も子供もできて、色んな話に共感したいんだけど……(笑)
 「潮騒」はちょっと異色だったかなあ。

 

 クラス委員だった山本さんは看護師になり、石川は僕にイラストの依頼をし、トシの母は和美と同じ病院に入院している。最後には「潮騒」以外に接点が生まれるのだ。そして、ガンリュウも、俊治も、母ちゃんも死んでしまったことを知る。もちろん和美も。