Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

石持浅海『月の扉』  ★★★

月の扉
月の扉
石持 浅海

「あんたたちは、この世で生きていくうえでは、他人からの悪意や憎悪に耐えられる力が必要だとして、キャンプを開催しているんだからな。でも、思い出してほしい。他人からの悪意に耐えられるということは、他人への悪意を持つことが」


 人の感想を読んで興味を持った。『扉は閉ざされたまま』を借りたかったのだがなく、丁度良い厚さの本書にした。有り得ないだろ、と突っ込みたくなる部分も所々あったけれど、そこに目を瞑ればとても面白いし、リーダビリティがあって読みやすい本じゃないかな。もっと作りこんだ方がよかったかもしれない。2004このミス8位だったのに、おかしいな、ノーチェックだったわ。これで11/20冊を読んだことになる。しかもトップ8位まで既読。おおー。『マルドゥック・スクランブル』を雑誌の広告等でよく見かけるから、次に読んでみたいな……って話が逸れた。
 週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。3人の犯行グループが、乳幼児を人質にとって乗客の自由を奪ったのだ。彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。誰が、なぜ、どのようにして――。(Amazon
 死体があったのは、ハイジャックされた機内という大きな密室内の、トイレという小さな密室。新しい設定だなあ。私にとってはハイジャックというのも読んだことがないし。そして、トイレは聡美からよく見える位置にあり、誰一人発見されるまで近づいてすらいない。よくこんなところから死体が出てくるよね。どういう真実が出てくるのか嫌でも気になります。
 更に、探偵役は頭の切れそうな真壁かと思いきや、死体を発見した女性の恋人の座間味くん(仮名)という一乗客。これはびっくり。探偵はでしゃばりばっかではないのね。しかも座間味くん、かなりの頭脳派で肚がすわりすぎ。偶然指名された人が、こんなにも活躍しちゃっていいのかい? 可能性を一つ一つ潰していき、辿り着いたのは……。最後の方ではちょっとおかしくなっちゃったのかと心配になりました。
 ラストには賛否両論ありそうね。私は割と好ましく思いましたが。悲劇を通り越して喜劇くさくも感じられたものの、終章が素敵だったので。
 全体的に緊張感に欠け(いくら乳幼児が人質になっているからとは言え、乗客はあまりに無抵抗すぎないか? のんびり推理してていいの?)、動機は本人達も言うように説得力に欠ける。けれど、面白いから相殺ってことで。新興宗教やらカリスマやらは好きじゃないんだが、面白いからなあ。まさに「荒業炸裂」なのでは。分厚い本でこれをやられたら困るかもしれない(大いに作りこみ方による。聡美の恋心とか、適当すぎるし)。この短さなのですっきり読めてよかった。

 

  麻里が犯人か……。名前が名前だけに複雑な心境(笑)悪意、何て恐ろしいものなんだろう。ペーパータオルの箱なんかに、カッターの刃が固定できるのかしら。ティッシュの箱を想像してるからいけないのかな。それにしてもうまくいきすぎたものだ。殺すつもりではなかったのに。女は強かじゃないと生きていけません。
 麻里がふらついて座席に手をついたこと、座間味くんが手を拭こうとしたらペーパータオルが空になってたことの二つはかなり印象に残ったので、伏線の張り方が上手いのか下手なのか、判断に困るなあ。
 柿崎さんが石嶺を殺してしまった理由、かなり宗教入ってないか? そもそも月の扉を開けて向こう側へ、って考え方からしておかしいけど。相当カリスマなんだな、彼を信じすぎてハイジャックはもとより殺人までしちゃうんだから。本人を。愛する者はこの手で、なんてありきたりな理由じゃなくさ。真壁も聡美も射殺され、残ったのは殺人犯となってしまった麻里だけ。……救いはないね(笑)
 泡盛片手に墓参りしてる座間味くんがかっこよかった。この墓は、「柿崎さんが刺そうが、石嶺さんが死のうが」と言っているから(聡美だったらもう一人分付け加えられそうだし)真壁のかな、って思ったんだけど「あんたたち」だから二人の? でもお墓って家族で入るよね? でも「あんた」とも言ってるわ。脳内で真壁にしてよろしいですか。その方が素敵だ(笑)