Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

殊能将之『樒/榁』  ★★☆

樒・榁
樒・榁
殊能 将之

 だが、小説のいったいどこに人間がいるというのだ。ここにあるのはたんなる文字の羅列であり、ページに印刷された無数の活字であり、たやすくデータに変換できる記号列であり、つまるところは白い紙の上の黒い染みにすぎない。そんなものになぜ心ときめき、思慕や情愛を抱くことができるのか、ぼくには理解しがたいことだった。(樒)


 キャラ萌え(石動に対して)……自分がいかにオタクなのかを実感しつつ読みました。何つうか、もう、石動がいればいいさ。彼の良いところは女性にきちんと興味を持っているところ。御手洗や火村助教授らには女の影もちらつかないが、石動はその点……ネタバレになるから言えないや。
 樒(しきみ):鮎井郁介の、水城優臣シリーズ中編。二人は香川県の飯七(めしがい)温泉へ赴くが、宿泊先の旅館で密室殺人事件が起こる。狂気は天狗塚から盗まれた、天狗の斧であった。
 榁(むろ):石動戯作は十六年ぶりに飯七温泉を訪れた。すっかり変わってしまった様相に驚きつつ、宿へ。その夜、中に人が誰もいないのに、完璧な密室ができるという状況が。
 120ページで700円という脅威の薄さ&値段の高さ。買うのは躊躇っちゃうな。中身は木へんを取れば「密室」なタイトルと同じく遊び心満載といいますか、期待すると肩透かし食らうかな。シリーズのつなぎ感覚で軽く読めばいいと思います。トリックもああだし、石動を愛でるしか私には……。かわいいんだもの。
 あ、樒と榁の構造はとても面白かった。樒を踏まえて榁を読まないと意味がない。更に、本書を読む前に『鏡の中は日曜日』を、どうせそれを読むなら『美濃牛』からシリーズ全て読むことをお薦め。私が後悔したから。殊能将之は一年に一冊しか書かないみたいなのですぐに追いつけるし。次はキマイラだなー。ミステリーランドは後でいいや。今年も石動シリーズ書いてほしいなあ。
 いつのまにかお気に入り作家になっていたという罠。

 

 樒はドアをぶち破った拍子に斧が壁から落下、社長に刺さるというとんでもトリックです。バカミスと言っても過言ではない。おいおいそりゃないだろ。文章の雰囲気がいつもと少し違ったのと(鮎井のだもんね)、崇徳天皇の薀蓄が多かったのとで読むのが大変だった。まあ水城がかっこいいからよし!
 榁に至っては登場人物の変貌にまず驚き(特に綾子)、肝心の密室は密室じゃありませんでしたという事実に驚く。そうか……窓の鍵、開いてたのか。ぷぷぷ(お前は何様だ)。
 まあ、この本の楽しみどころは二つのパートをあわせて見えた、石動のエロスではないですかね! ごめんこんな女で。「名探偵ヘアヌード集」、望遠鏡で温泉覗き、宿の代金を定額で支払った上に骨董品を十五万円で弁償……。えも言われぬ俗っぽさが素敵です。黒い仏と鏡の中でも女にくらっとしてたしね。若い頃から水城に弱いのは分かったけどさあ(笑)