Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

吉本ばなな『TUGUMI つぐみ』  ★★★★

TUGUMI(つぐみ)
TUGUMI(つぐみ)
吉本 ばなな
 それがいくら自然の生み出したやむをえないこととはいえ、つぐみのこわれた肉体に、つぐみの心が宿っているというのはひどく切ないことだった。つぐみには誰よりも深く、宇宙に届くほどの燃えるような強い魂があるのに、肉体は極端にそれを制限しているのだ。

 言わずと知れた名作。昔はわからなかった吉本ばななのよさがわかるようになってきました。成長なのか、老成なのか。
 私・まりあは母の妹夫婦の経営する旅館にお世話になっているのだが、いとこのつぐみはいやな女の子だった。病弱な彼女は甘やかされて育ち、まるで悪魔のようになってしまった。天使みたいなつぐみの姉・陽子ちゃんと母・政子おばさん、楽天家の母とマイホームパパの父、夏に出会った恭一。きらきらとした言葉で描かれている彼らの生活。連作短編集というべきか? お化けのポスト・春と山本家の姉妹・人生・よそ者・夜のせい・告白・父と泳ぐ・祭り・怒り・穴・面影・つぐみからの手紙の12話。タイトルでこの一冊を振り返れるなあ。
 やっぱりね、村山由佳と比べるとこっちの方が断然好きなの。『デッドエンドの思い出』は私のバイブルなのよ。うまく言えないけど。村山由佳にあるある種の湿っぽさを綺麗に乾かしてくれているからかもしれない。どろ、じゃなくて、さら、と伝えてくれる。これが川上弘美になると、とろ、になるかな。自分でも何言ってるかわからないですが。
 これは恋愛が主題ではないようなので、現代のところに入れておきました。友情でも、家族の絆でもなく、それらを全てひっくるめた思い出を閉じ込めた本。装丁の素敵さもあいまって手元に置いておきたくなる。残念なことに、大学で借りた本書にはカバーがなかったんだけど。
 つぐみの生命力の強さに乾杯。