Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

北方謙三『ただ風が冷たい日』  ★★★☆

ただ風が冷たい日
ただ風が冷たい日
北方 謙三

「俺ができるのは、自分ひとりの命まで。それ以上のことはできないし、やれるとも思ってない」
「おい、聞いたかよ」
 私が言うと、波崎が肩を竦めた。
「みんな、誰だって、自分の命以上のことはできはしない」

「生きてる人間は、いつだって死んだ人間に対して、責任ってやつは負うもんだ」
「重たいな」

「男はな、崎田。心の中に拳銃を持ってりゃ、それでいいんだよ。この五人が持ってる拳銃、おまえのようなやつには見えないだろうな」


 こっちが恥ずかしくなってくるような気障さ! 格好いい、そりゃもう格好いいんだけど、最近男たちがかわいいとしか思えなくなってきました。
 街に怪しい男が入り込んできた。街の揉め事を解決する役回りのソルティ(若月)は、怪しい男・高岸の観察をはじめた。高岸が狙っていたのは、弁護士のキドニー(宇野)という男だった。高岸と宇野は、バレンシアホテルの詐欺まがいの借金問題の解決のために、街にやってきた。バレンシアホテルの権利書は借金のかたとして、街に恨みのある崎田という男の手に渡っていた。そして、ブラデイ・ドールのオーナー川中とピアニストの沢村が、問題解決のために街に乗り込んできた。すべてのカードが街に揃った時、男たちの生き様を賭けた闘いがはじまる。(Amazon
 

 

「藤木さんは、結局俺のスパゲティは食わなかったが」
「おまえは、藤木さんの蕎麦は食ったのか、坂井?」
「二度」
「ふうん」
「他の料理が、四度ぐらいかな」
「どんな」
「カレーとシチュー」

「俺も、社長がいいと言うまで、死ねませんが」


 N市の人たち大活躍ですね。なんでこんなにかわいいんだろう。藤木の手料理を坂井が食べてるなんてっ……! 社長も間違いなく食べたな。本書で一番のツボでした。

「死ぬ時は、笑おうと思っていた」
 波崎の声は、途切れ途切れだった。
「ずっと昔から、そう考えていたんだ」
「おまえは」
「ひとつだけ、言っておく、ソルティ。ポルシェのクラッチ、ポンと繋いでくれ」
「わかった」
「高岸、ソルティの運転、見てやれよ」
「はい」
 高岸は、波崎の躰を抱いたまま言った。
「ソルティ、俺が死ぬ時ぐらい、一緒に笑え」
 波崎が笑った。


 そして波崎! ソルティといったら波崎、になってきてたのに……どうして……理屈で考えちゃだめよ!笑 死に方がまた泣けるんだわ。笑ったまま死ねるなんて幸せよ……。ソルティはかなりの衝撃を受けている様子で、最後には坂井に銃を取り上げられる始末。コンビ組んでたんだもんな、ああやりきれない。