Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

重松清『ナイフ』  ★★★★

ナイフ
ナイフ
重松 清
 自殺なんか、ぜったいにするもんか。生きていくっていうのは、つらいんだから。そうだよ、楽しいわけないんだ。いままでの生活のほうがおかしかったんだ。赤の他人に囲まれてるんだもん、つらくないわけがないんだから。(ワニとハブとひょうたん池で)

「ほんと、間違ってるんですよね、偉そうなこと言ってても。後悔してることいっぱいあるんです。ウチだけじゃなくて、たぶん、みんな。親って間違いばかりするんです」(ビタースイート・ホーム)

 とってもよかったと言っていい。痛々しくて苦しく、だからといって目を背けることはできなかった。いじめの話、私が思いつく海外ものはジェリー・スピネッリ『スター・ガール』しかないものの、日本とそうでない場所の差は大きくて……そんな感じで長いこと洋書は避けてる。やっぱり日本人が書くいじめは身に覚えがありすぎて怖い。
 これ、長編だと勘違いしてた(よくありすぎ)けど、短編集だったんで驚いた。五話あるうちの四つにいじめが描かれてる。いじめ短編集みたい。主人公は重松清の本は『エイジ』しか読んだことないが、感想をよく見かけるので夏休みに幾つか読んでみようかなと。『流星ワゴン』『きよしこ』『疾走』あたりを。全て一人称で、とても読みやすかったのできっといけるだろう。他がどうなのか知らないけどね。
 ワニとハブとひょうたん池で:私立の女子校に通うミキは、ある日突然クラス全員にハブかれてしまう。公園の池にあらわれるというワニに食べられてもいいと思うくらい、辛い日々がはじまった。
 ナイフ:自分と同じチビの遺伝子を受け継いでしまった、息子・真司の様子がおかしい。どうやらいじめにあっているらしいのだが……。
 キャッチボール日和:野球選手の名前をもらった、幼馴染の大輔くん。気合と根性が合言葉のお父さんの期待とは裏腹に、大輔くんはいわゆるキョジャクジ。わたしはそんな二人をかわいそうにおもう。
 エビスくん:二学期に転校してきたエビスくんはぼく・相原の隣の席になった。翌朝からエビスくんの「親友」にかこつけたいじめがはじまるが、ぼくはへらへら笑ってばかりで周りの反感まで買ってしまう。病気の妹に、エビスくんをお見舞いにつれていくと約束したのに。
 ビタースイート・ホーム:娘・奈帆の日記には感受性がないと、担任の先生がコメントした。元教師の妻はそれを見て苛々を募らせる。いつからか「なんとかなる」が「なんとかする」に変わった家庭。
 ワニ、うちの出身校の中学生ならやりそうで怖い。ミキは頑張ったよ。表題作のナイフはあまり好きではなかったな。重松清といえば親子ものなのかもしれないけど。エビスくんでは妹・ゆうちゃんのいじらしさに号泣させられました。ここでそのお願いを出すか、と。うまい! 私にはこれが一番だった。ビタースイート、ポルノが思い出されますね(……)。ええと、女性にとって家庭に入ることは果たして幸せなのだろうか。私は専業主婦希望だからともかくとして、望んでいないのに仕事をやめなくてはいけない、ってどうなのかな。子育てに悩んだら、上の引用を思い出そうかな。
 切ない心情や台詞にやられた一冊でした。抜き出したいとこ沢山あったんだよー。