Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

島田荘司『御手洗潔のダンス』  ★★★

御手洗潔のダンス
御手洗潔のダンス
島田 荘司


「他者の多数決におもねろうと血道をあげているのがこの国の人々だよ」
「じゃあ君はどうだというんだ?」
「僕は宇宙からつり革のようにぶら下がる真理を常に鼻先に見ている。こいつを右手で掴んで立っているから、このぎゅうぎゅうの満員電車が右に左にいくら揺れても、一向に平気なんだよ」

「僕は女性をライバルとして対等に遇しているだけなのさ。男なら石岡、御手洗というふうに個人のレベルで語られるけど、ハンドルを握る女性がヘマでもやらかすと、それ女というものは、と女性総体の責任として語るのが人の常だ。アメリカ人、イタリア人でもなく、ガイジン、というのと同じ発想で、鎖国時代の天動説だよ。これと戦っているのも、ほかならぬ僕さ」(ある騎士の物語)


 結構連続して読んでいるつもりだったけど、一ヶ月ぶりくらいに御手洗シリーズ(感想は即日ではない場合が多いので)。御手洗が素敵だったのでつい多く抜き出してしまった。それより、どんどん石岡君が可愛い人になっていくねえ。某頃の覇気はどうした。あれは勘定に入らないのかも。
 山高帽のイカロス:人間は空を飛べるはずだ、と日頃主張していた幻想画家が、4階にあるアトリエから奇声と共に姿を消した。そして4日目、彼は地上20メートルの電線上で死体となっていた。しかも黒い背広姿、両腕を大きく拡げ、正に空飛ぶポーズで! 画家に何が起きたのか?(Amazon
 ある騎士の物語:秋元静香と取り巻きの四人の男性たち。彼らの過去に、藤堂次郎という男の不思議な殺人事件が絡んでいた。雪の日、動機のあった人間が駆けつけられない場所で、男はピストルで至近距離から射殺された。
 舞踏病:御手洗のもとに、下宿人・由利井源達が狐つきのように踊り出すので困っているという相談が持ち込まれた。しかも、下宿を依頼した源達の息子たちは、破格の支払いをした上に、毎回鳥打帽子を被って『例のものはどこだ?』と尋ねにくるらしいのだ。
 近況報告:本当に近況報告。御手洗と石岡の普段の生活や、部屋の見取り図。同人誌に触れていたりと、一部の女子へのサービスか。
 トリックは例によりちまちましているものではなく、御手洗の女性に対する見解も伺え面白かったんだけど、最後の一話はちょっと……。後書き(?)も大抵痛い。知ってたことではあるがね! もっと割り切ってほしいのが読者としての希望だね! ファンとして嬉しいようなしょっぱいような、複雑な気分になりますよ。
 さて、次は待ちに待った長編だ! 有栖川有栖は短編が好きだけど、島田荘司は長編が好き。楽しみ。

 

 私が大好きな二人の漫才が見られた!

「石岡君」
 と肩を叩かれた。
「触るなよ!」
 と私は厳しく言った。
「ついでに泳いだらどうだ? 僕はそんな服は洗濯しないぞ」
「ついに組みあがったんだ! ジグソーパズルに欠けていた最後の一ピースを、とうとう見つけた。見てごらんよ! すべてが解った」
「自分で洗えよ!」


 全然噛みあってないよ(笑)占星術のパンと牛乳くらい。しかもこの後、石岡は去っていく御手洗に「どこへ行くんだ? おい御手洗、一人でどこへ行くの?」だからね。石岡君もっと大人になりなよ! 彼の自立に話をついやした本があるらしいですね。二人の掛け合いが読めないなんてどうすればいいんだい?
 山高帽はお馴染みの建物を活用したトリック。偶然に引っ張られつつもこういうの好きだなあ。ある騎士、微妙に知ってる地名や使用する路線が出てきて嬉しかったり。舞踏病は赤毛同盟みたいだなあ、と思ってたら目的は場所+源達自体でしたね。歯に隠しておけるほどのダイアモンドがそんなに高いのかな。大きさじゃなく質か。