Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

北村薫『スキップ』  ★★★☆

スキップ
スキップ
北村 薫

「そのずれが、あんまりいいものじゃあないと思ったから、少しずつ、元にもどそうとしている。――そんな僕から見ると、君のすらりとした心の向きは、とても綺麗に見える」
 しんと胸を打った。嘘のない言葉だった。でも女のわたしには、同時に哀しい言葉でもあった。


『8時から13時まで教習所、14時から21時までバイトした後お風呂でクライマックスを読んだら泣いてしまった。我ながらあれは泣き所だったのかわからない。しかし、おもしろかった』というコメントを16日に残した。疲れ果てたから感傷的だったのだろうかと思ったが、今ちょっと読み返しても、やっぱり泣きそうになってしまったので私にとって本作はそういうものなのかしら。
 一ノ瀬真理子は十七歳の女子高生。文化祭の準備に勤しんでいたある日、家でうたた寝をして、目を覚ますとそこは見知らぬ家だった。家にいたのは真理子の娘と名乗る美也子と、彼女の父の桜木さん。どうやら二十五年後の世界に来てしまったようなのだ。わけもわからないのに、母として、妻として、国語教師として、進まなければいけない――。「昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。だが、私には今がある。」
 スキップ、という題名の通り、十七歳から二十五年間をスキップして四十二歳になってしまった真理子。この前まで同じ十七歳だった私だが、これはあまりにもむごい。まだ本気で恋をしていない(プロローグを読む限りそうだろうと思われる)のに、結婚して子供までいるなんて! 一番楽しかったであろう青春時代~二十代を経験できないなんて! 大学進学が決まった今だから更に、恐ろしく思われます。笑
 でも真理子は偉い。悩みはするけれど、前向き。自分という人間の存在する場所を作ろうと一生懸命。桜木さんに手伝われながら教師としての役割をきちんと果たしてる。いつのまにかそんな自分に慣れていってる。真似できない。
 そんな心細さと頑張りを見てきて、一緒に歩んだような気分に浸ってしまったから、山尾君の言葉や歌の部分ではぼろぼろ泣いてしまったんだと思う。それらがただ、ぽっと単体で出てきたのならありきたりだなあ、としか感じられないのだろうが、積み重ねの部分が大事なわけで。
 ああ、若さって宝物だわ。

 

 『ターン』を先に読んでいたので、きっと十七歳に戻って終わるんだろうなと予想していたら大ハズレ。何ともびっくり。現実的、というのは違うけど、過酷だなあおい。真理子はちゃんと自分を確立できたみたいだから良いが……自分だったら発狂しそう。
 桜木さんも、美也子さんも、真理子の生徒達も素敵でした。私自身が、二十五年後にそんな人たちに囲まれていられるような生き方をしていきたい。前向きに進もう。