Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

サンティアーゴ・パハーレス『螺旋』  ★★★★

 すごく面白くて読みやすかった。デビュー作に全てが詰まってる、のお手本みたいな話だ。木村榮一氏の翻訳は愛してるんだけど、現代小説を翻訳する際は女性の台詞の言葉遣いを一新してくれたら嬉しい。

螺旋

螺旋

 

絶妙な語り口、緻密なプロット、感動のラスト。大ベストセラー小説『螺旋』の作者トマス・マウドは、本名はもちろん住んでいる場所すら誰にも明かさない“謎”の作家。「なんとしても彼を見つけ出せ!」出版社社長に命じられた編集者ダビッドは、その作家がいるとされる村に向かう。一方、麻薬依存症の青年フランは、盗んだバッグに偶然入っていた『螺旋』をふと読み始めるのだが…。いったいトマス・マウドとは何者なのか?2つのストーリーが交錯する時、衝撃の事実が明らかになる!驚異のストーリーテラーが放つ、一気読み必至の長編小説。(Amazon

 ラテンアメリカ諸国の小説は頑張って読もうとしているんだけどスペイン本国ってあまり知らないのよね。600ページほどの一段組長編だけど、一段組とあってそこまでのボリュームはないし読み口も軽いので、新しめの(といっても2004年刊だが)スペイン小説を読みたいときに適している。マドリードでも仕事の面接に行くと面接官は残業代を支払わずに働く気があるのかを問うてくると言ってる。悲しいことである。

『キャンバス』を先に読んでから本書に来たのだが、こちらの方が断然好きです。プロットが練り込まれているというのと、ストーリーを語ることに重きをおいているのと、人の良さが前面に出ていて読後感が爽やかでした。おすすめ。

チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』  ★★★★

 ツイッターで話題になっていたので読んだらめちゃくちゃ重くて打ちのめされたけどいい読書だった。初めての韓国小説が本書だったのは幸運だったのかもしれん。

こびとが打ち上げた小さなボール

こびとが打ち上げた小さなボール

 

取り壊された家の前に立っている父さん。小さな父さん。父さんの体から血がぽたぽたとしたたり落ちる。真っ黒な鉄のボールが、見上げる頭上の空を一直線につんざいて上がっていく。父さんが工場の煙突の上に立ち、手を高くかかげてみせる。お父ちゃんをこびとなんて言った悪者は、みんな、殺してしまえばいいのよ。70年代ソウル―急速な都市開発を巡り、極限まで虐げられた者たちの千年の怒りが渦巻く祈りの物語。東仁文学賞受賞。(Amazon

「刊行から30年、韓国で今も最も読まれる130万部のロングセラー」だそうで。それもそのはず、内容がまったく古びていないんですよ。資本家と労働者と労組問題。現在進行系で安月給と長時間労働に悩まされている身にとっては人ごとではない。

 まあとにかく読んでみるといいと思う、連作短編集の形式だから読みやすいし。最初の「メビウスの帯」は導入なので、よく分からなくてもリタイアせず先に進んでください。二つ目の「やいば」のラストには身を切られるようだった。その後はまた視点が変わって語り口が饒舌になる。わたしはあまり専門的なことは言えないけれども、韓国アイドルにハマっていることもありもっと色々読んでみたいと思いました。

 ただ、心身ともに健康なときに読まないとそこそこのダメージを受けるから注意してください。

映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」

dries-movie.com

 モノを作る人の真摯な姿勢にはつい泣かされてしまう。ファッションのことは何も知らないけど、一人のデザイナーのショーを年を追って見るのは楽しそうだね。いいドキュメンタリーだと思います、ジャンルがジャンルなだけあって絵面も美しかった。

 ドリス・ヴァン・ノッテンが映画で喋ってたのオランダ語かー。ベルギーって仏語と何だっけ、ゲルマン系の言語は何もわかんねえな、と思い出せないでいた。そうでしたね。

マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』  ★★★★☆

 バルガス=リョサを無事に読了できたのはこれが二冊目! つまりすごく読みやすくリーダビリティがあり現実寄りのストーリーである、何てったって史実だからな。おすすめです。ただし性犯罪を女性視点で描く胸糞なパートがあるのでフラッシュバック等に注意してください。 

チボの狂宴

チボの狂宴

 

1961年5月、ドミニカ共和国。31年に及ぶ圧政を敷いた稀代の独裁者、トゥルヒーリョの身に迫る暗殺計画。恐怖政治時代からその瞬間に至るまで、さらにその後の混乱する共和国の姿を、待ち伏せる暗殺者たち、トゥルヒーリョの腹心ら、排除された元腹心の娘、そしてトゥルヒーリョ自身など、さまざまな視点から複眼的に描き出す、圧倒的な大長篇小説! 2010年度ノーベル文学賞受賞!(Amazon

 締めにあの場面を持ってきたところでいくらか胸糞だった気分が(胸糞には変わりないんだけど)落ち着きました、そこに描かれた犯罪に対する作者のスタンスが否定的だったから……。しかしつらいよ。ウラニアの筋は、本書の中では唯一フィクションで付け加えられた登場人物群ではあるけど、本当につらい。ウラニアは村を焼くべき。

 ウラニアに変わって村を焼きたいくらい胸糞だったフィクション筋はさておくとして、小説としては大したものでした、ノーベル賞受賞作家に向けていうことでもないけど。解説の「固く閉ざされた心を他者に開いていくプロセス」とはとても思えませんけどね。あれは。一生清算できないよ。

 パラゲールが(どこまで史実なのか知りませんが)「国の民主化が進み、何もかも変化しつつあることを印象づけるには、過去を自己批判するしかありません」とラムフィスに説いているところ、国外の慰安婦像に過剰反応する方々は読んだ方がいいんではないでしょうか。

 現代社会における文学の役割を「異なる文化や価値観の出会いとそこから生まれる葛藤を表現することで、読者の人間性に対する理解を深め、良識や感性を養い、現実に起こっている問題を自信の問題として受けとめられるよう促し、“自分の主張のみが正しい”とする狂信主義へと人々が傾くのを阻止する」と、それが「現代に生きる作家としてのみずからの使命である」と著者は発言しているようですが、さすがのアウトプットだねとしか言いようがないです。小説としてもすげえ面白いし読みやすいもん。翻訳も良かったと思います。ラテンアメリカ小説読んでてそんなに悪いものに行き当たった記憶はないが。

『都会と犬ども』では祖国に焚書されてたけど、こっちはドミニカ共和国でどういう扱いなんだろうね。色々と指摘はあるみたいだが、まあ焚書はされないんだろうな。笑

映画「永遠のジャンゴ」

www.eien-django.com

 こないだ佐藤亜紀のスウィングしなけりゃ〜を読んだから見てみた。音楽成分は少なめです。フランスってかなり長い間ドイツ占領下にあったのねと今更……政治と切り離せるものなど何もありませんね。

ミシェル・ウェルベック『服従』  ★★★

 最後まで男根主義だったので逆にあっぱれと思ってしまった。いや描きたいことは分からずでもないのだが表面的にそこでオチをつけるんだ?! と。この時代のヨーロッパおよびヨーロッパ人を映し出しているのかもしらんが、服従したのはペニスにじゃないか……。

服従

服従

 

2022年、フランス大統領選。既成政党の退潮著しいなか、極右・国民戦線党首マリーヌ・ル・ペンと穏健イスラーム政党党首モアメド・ベン・アッベスが決選投票に残る。投票当日、各地の投票所でテロが発生し、ガソリンスタンドには死体が転がり、国全体に報道管制が敷かれる。パリ第三大学で教員をしているぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。自由と民主主義をくつがえす予言的物語、英語版に先駆け、ついに刊行。(Amazon

 小説としてはすごく嫌いだけど、時代を写す作品としての価値はあると思います。自分でも読みながら「この冒頭のミソジニーを乗り越えて読みきるだけの価値があるのだろうか」「この44歳の男性主人公のミソジニーおよび男根思想自体は作中で批判されないの??」と思っていたが、あることはある。現代フランスの政治や宗教を扱うものを読むことってわたしは全然ないので。これで主人公の男根を切り落としたら最高。

 2016年の米大統領選挙後に起こったことをニュースで見聞きした上で作中内の選挙後の様子を読むとなかなかあれだな、すごいな。この本が出た日にシャルリーエブド事件が起きたってのもなあ。大統領が変わってからの家族手当や教育政策は日本政府がやりたいことと同じかも知れんなと思ったり。しかしこの男性主人公のセックス描写をなんとかしてくれ。

 ウェルベックのSF長編も気になるけど、服従の主人公があまりに男根にこだわり過ぎているので、これがキャラメイクではなく作家自身から来ているものだとしたら他の本は読まない方が身のためだ。

映画「ダンシング・ベートーヴェン」

www.synca.jp

 ダンシング・ベートーヴェン、何も調べずに行ったらベートーヴェンよりダンス成分が多かったw そうよね、バレエ団のドキュメンタリーだもんね……バレエは一度見たいと思いつつ見れてない。二楽章でソロしてた日本人ダンサーよかったな。

 メインインタビュアーの女性や、それに答えるダンサーたちが、カメラの前でリラックスした姿勢でいるのがとても羨ましかった。いや、三年ぶりに日本で働いているんですけど、日本の会社にいるのが結構つらくて……敬語が諸悪の根源なんじゃないかと……。

 メイン言語がフランス語で、入門程度に勉強したことがあるから頑張って耳を傾けてしまってイマイチ字幕に集中できなかった。笑 英語や中国語なら聞きながら読めるんだけど……たまに知ってる単語があるのと数字だけ聞こえてくる。

映画「プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード」

mozart-movie.jp

 一言でいうと、家父長制に殺された女の話でした。そんな内容だとは思いもしなかった。

 ネタバレを含みますが、作中でのモーツァルトは妻子持ちなのに独身女性に手を出し結果的に自分はノーダメージというしょうもない男で、ドン・ジョバンニのモデルにされてる男爵はクズで、本当に男がだめだった。監督脚本の人はどうやら女性が家父長制の犠牲になったという意識がないようで、最後を感傷的に締めているのがまた気に障った。

 プラハの町並みは、前に旅行でいったことがあるので懐かしかったしとても綺麗でした。ドン・ジョバンニが初演された建物も案内してもらった気がするし、プラハ城への坂道を馬車で登るところもあー晴れてたらもっと綺麗なのに〜と思ったり。この映画のおかげでオペラは見たくなった。オケも聞きたくなった。別の国に旅行にもいきたくなる。しかし女の扱いがひどすぎるのはいかんともしがたいのであまりお勧めしません。古典はこれがあるからな。

 映像の編集という意味では、じっと映像を見ていることの苦手なわたしでも飽きずに最後までいったのでうまかったのかもしれない。

佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』  ★★★★

 2008年初読みにしては重かった。でも面白かった。

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

 

 ハンブルクに実際にいたスウィング・ボーイズをベースにして書かれていますが、いかんせん教養がなくどこまで史実なのか分からない。当時はジャズが敵性音楽だったんだなあ、というレベル。当たり前のことを言うと小説がうまいですね。

 佐藤亜紀の本を読むのは初めてで、ツイッターでたまに回って来る発言を見かける通り、博識で頭のいい人なんだなあという印象。フランス留学してらして、ドイツ語の文献も読みこなすのかあ。本書は文体が砕けていてとても読みやすかったけど、他のは固めなのかな。国外舞台の小説を翻訳ではなく日本語で書くとこんな台詞回しができるのねー。新鮮。

 著者の公式サイトからサウンドトラックが見れます。裏話を読んでいたら「皆川博子氏に指摘された」という一文があって、すごい、博識な人たちの繋がりだと頭の悪いことを思った。皆川博子といえばドイツだもんな。

 今年は読んだ本をせめて記録しておきたい。

津村記久子『浮遊霊ブラジル』  ★★☆

 今気づいたけどこの本のタイトル「幽霊」じゃなくて「遊霊」なんだな。

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル

 

初の海外旅行を前に死んでしまった私。幽霊となって念願の地を目指すが、なぜかブラジルに到着し……。川端賞受賞作「給水塔と亀」を含む、会心の短篇集!

【収録作】
「給水塔と亀」…定年を迎え製麺所と海のある故郷に帰った男。静謐で新しい人生が始まる。〈2013年川端康成文学賞受賞作〉

「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」…静けさのないうどん屋での、とある光景。

「アイトール・ベラスコの新しい妻」…ウルグアイ人サッカー選手の再婚の思わぬ波紋。

「地獄」…「物語消費しすぎ地獄」に落ちた女性小説家を待つ、世にも恐ろしい試練とは。

「運命」…どんなに落ち込んでいても外国でも、必ず道を尋ねられてしまうのはなぜ?

「個性」…もの静かな友人が突然、ドクロ侍のパーカーやトラ柄で夏期講習に現われて…

「浮遊霊ブラジル」…海外旅行を前に急逝した私。幽霊となって念願の地をめざすが。(Amazon

 先週末くらいに読みました。軽めの短編集。わたしは大学生の女子が想い人に認識されるために派手な格好をする「個性」が好きだった。これはかわいかった。「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」もよかった。なのになぜ評価が低めなのかというと、この短編集は全体的に一歩引いた脇役の視点が多くて、文章に熱さや切実さがあまりなかったからです。わたしは津村さんだとデビュー作やコピー機の話や『ミュージック・ブレス・ユー!』が好きなんである。当事者が想いをぶわーって語る系の話が。