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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

田中芳樹『銀河英雄伝説(1)』  ★★★☆

銀河英雄伝説〈1〉黎明篇
銀河英雄伝説〈1〉黎明篇
田中 芳樹
 人間が老いを約束されているように、国家は堕落と退廃を約束されているのかもしれない。(中略)
 戦争をする者とさせる者との、この不合理きわまる相関関係は、文明発生以来、時代を経てもいささかも改善されていない。むしろ古代の覇王のほうが、陣頭に立って自らの身を危険にさらしただけましかもしれず、戦争をさせる者の倫理性は下落する一方とも言えるのである……。

「中尉、私は少し歴史を学んだ。それで知ったのだが、人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ。生命以上の価値が存在する、という説と、生命に優るものはない、という説とだ。人は戦いを始めるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする。それを何百年、何千年も続けてきた……」

 ヤンですよ。
 何って私がヤン・ウェンリーに堕ちたということです(笑)絶世の美男子・ラインハルトもその親友キルヒアイスも目に入りません。元々フィクションにおいて、金髪碧眼の美男子ってのはあまり好かないんだな。これは白人コンプレックスじゃないと思うけど……。ラインハルト・キルヒアイスの設定は好きなんだが。てなわけで、ヤンが登場すると冒頭ノれなかったのが嘘のようにのめりこみました。しかも、ヤンは未婚でユリアン少年の保護者である。……も、文句のつけようがないじゃないか!笑
 宇宙暦八世紀、人類は二陣営に分かれていた。銀河帝国VS.自由惑星同盟。若き二人の天才の出現がその均衡を破った。帝国軍上級大将・ラインハルト、そして同盟軍きっての用兵家ヤン・ウェンリー。帝国軍は反旗をひるがえす同盟に向けて遠征を開始する。迎え撃つ同盟軍。アスターテにおいて両軍は激突した! それは二人が宿命のライバルとなる戦いの幕開けでもあった……。(裏表紙)
 ヤンが死んだら読むのをやめてしまいそうだけど、ラインハルトとライバル関係にあるのなら安心して読めます。カラーイラストにヤンがいないのが残念だ。
 さて、解説にあるように田中芳樹は『架空歴史小説』が書きたかったようで。随分壮大だなあと思いますが、実際歴史をつくり上げようとしています。一巻しか読んでないからそれが達成されたのかは分からないものの、今に至る人気を鑑みると成功したのでしょう。田中芳樹は歴史に造詣が深いらしく、作中にも聞き覚えのある人名が出てきます。もっと歴史を勉強しておけばニヤリできたかもしれないな。宇宙を舞台にした物語はまだまだ序章。今後の展開に期待が膨らみます。
 元々「戦争小説」(あくまでもフィクション)が大好きなのですが、戦争小説には必ずといっていいほど無能な上司の下で苦悩する有能な部下が出てきます。それがまたたまらないのです。野心を持っているよりも、日和気味の人が好みであり……つまり、ヤン、です(笑)