Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

舞城王太郎『熊の場所』  ★★

熊の場所
熊の場所
舞城 王太郎
 そして恐怖に立ち向かうのは、明日ではもう遅いのだ。今すぐそこに戻らなくてはいけない。でないと、自分の恐怖を消し去ることはできなくなるのだ。(熊の場所

 愛情というのはどうしてこんなにも乱暴になれるのだろう?どうして物事をうまくいかせようとすることを、こんな風にむりやり阻んだりするのだろう?(バット男)

「阿呆!それを言うのがあんたの責任やろうが!あんた自分がどれだけ阿呆なことしたか、ちゃんと説明して、許してくれるようしっかりお願いせえや!」
「そんなの絶対許してくれんわ!」
「ほうやったら必死になって謝れや!」(ピコーン!)

 キャッチーな表紙ですこと(そうか?)。これほんとに講談社文庫? と思ったら小さくパイプ咥えた犬がいました。中身は短編が三つ。一つ一つ字体が変わっていて、『好き好き大好き超愛してる。』みたいだ。未読だし、あっちは紙の質まで違うという凝りぶりだけどね。舞城はこれで三冊目かな? 奈津川ファミリーサーガの続きが読みたいから予約しなきゃいけないんだけど……いつも忘れる。語り手が四郎じゃなくなっちゃうのが残念でしょうがない。
 熊の場所:小学五年生の僕は、クラスメイト・まー君のランドセルから猫の尻尾が出てくるのを目撃、猫殺しをしていることに気づいてしまう。恐怖を克服する為に僕はまー君に接触し、仲良くなって泊まりにいくまでになるが……。
 バット男:調布に出没するバット男。バットを振り回す危険人物ではあったが、本当に人を殴ったりはしないので逆に殴られる標的となってしまった。彼はそのうち死んだようだが、生前にバット男に四万円もらってやった梶原亜紗子という女が僕の同級生の彼女だったのだ。
 ピコーン!:私・智世子は恋人の哲也と同棲している。ある日、大検を受ける事を決意し、哲也に告げると彼が提示した条件がフェラチオ一万本ノック。そんなこんなでフェラチオ大好きになった私を残し、哲也は死んでしまう。
 ものすごい話ばっかり。さすが舞城。そして私は始めて舞城の作品を二段組で読んだ。バット男だけ、そうなのよ。あとの二つはいつも通りノベルスのくせに普通。読点増えたなあと思っていたらピコーン!には一つも使われていないという恐ろしい事態が待ち受けていた。ついでに女主人公をあまり好かないのでピコーン!は読むの大変だった。一人称はやっぱり「僕」でないと! 僕大好きー。
 熊の場所、猫の尻尾が箱に沢山入っている光景って、恐ろしいな。僕こと宏之も結構おかしな子どもだよ。自分が殺されるかもしれないスリルを私は楽しめない絶対。恐怖から逃げずに戻る男気は素晴らしいね。一生恐怖につきまとわれるのはいやだけど、立ち向かうのもいやだ。バット男はひたすら愛がたりない二人のすれ違いが切ない。そしてピコーン!、智世子逞しすぎ。フェラチオを一ヶ月で120本(つまり一日4本)という恐ろしいペースでこなし、哲也がびっくりな殺され方をしたらピッコンピッコン閃きまくってつきつめる。殺す殺されるは本来警察や裁判所に関係なくて、当人たちの問題なのかも。犯人の言い草と智世子の啖呵。許してくれないんなら必死になって謝る、か。買った本はちゃんと読みましょう、ええ。
 舞城は引用したくなる箇所が多くて困る。説教くさいといわれるってことはイコール何だかずしりと胸にくる(ような気がする)文章に富んでいるってことじゃないかな。一度だけではそうでもないが、どこ引用しようかなと読み返すと全部オッケーな感じ。うーわーいつのまにか舞城っ子になってるよ。