Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

若竹七海『ぼくのミステリな日常』  ★★★☆

ぼくのミステリな日常
ぼくのミステリな日常
若竹 七海

「その歳になるまで花見をしたことないなんてさ。ちょいと国宝級だよ。花は桜木、人は武士。桜をめでてこそ、日本人ってもんでしょうが」
「風下、町人で結構ですよ。春、地面や風のなかからパワーを引き出して咲き狂う花を、気持ち悪いと思いこそすれ、愛そうなんて思いませんからね」


 ブログ「ぼくの若竹七海な日常」さんでは二位の本書。仕掛けが凝っていた、若竹七海のデビュー作。
 若竹七海は社内報の製作を任された。毎月短編小説を載せなくてはいけなくなり、先輩・佐竹に依頼するが断られ、代わりに紹介されたのがとある匿名作家。短編中の「ぼく」はこの作家である。
 嫌い桜:大学の先輩に誘われ花見へ。その先輩・籐子のアパートには大きな桜の木があるのだが、花が咲き誇る春の日、不在中の隣人の部屋が火事に。
 鬼:喘息にかかったぼくは仕事をやめた。公園に出かけると、女性がとべらの枝を花鋏でねじくっていた。妹の敵みたいなものだと言う。
 あっという間に:友人・寒河は商店街の野球チームに、サインを洩らしているかもしれない奴がいるから調べてきてくれと頼まれたらしい。
 箱の虫:従姉妹・彦坂夏見の誕生日。喫茶店にいたら、夏見は部活仲間で箱根旅行をした時の失敗談を喋り出した。
 消滅する希望:ぼくを訪ねてきた友人・滝沢は、朝顔の女が夢に出てくる、ノイローゼだと震え、やつれ果てていた。
 吉祥果夢:九月、ぼくは高野山の宿坊に泊まることに。隣の部屋にいた女性・岸本和子と仲良くなったのだが、彼女はとある霊体験について話し出した。
 ラビット・ダンス・イン・オータム:先輩・円山にアルバイトを頼まれたぼく。編集長の机を掃除させられた際に、大事なメモをしたカレンダーを捨ててしまった。
 移し絵の景色:飲み会に参加したぼくは、頼もしいかぎりの女性だった松谷先輩が泣いている場面に遭遇。版画作家の作品を盗んだ疑惑をかけられていたのだ。
 内気なクリスマス・ケーキ:自然食品レストランに行ったぼくと佐竹と新居。新居は幼少時代、隣人の息子である酒井優介が作ったケーキを思い出していた。
 お正月探偵:買い物強迫症という神経症の一種だと診断された、と電話してきた友人・坊野。ぼくは、坊野が買い物マニアかどうか、尾行して確かめてくれと頼まれる。
 バレンタイン・バレンタイン:ぼくが昔家庭教師をしていた「美奈子」という生徒と電話していると、彼女はシャロン・マコーン似の不審な女性を見たと言う。
 吉凶春神籤:大学のゼミで一緒だった芳野道子は、強烈な女性だった。そんな彼女は、付き合っていた男に合わせるために変わってしまった。
 匿名作家の作品はこれで全て。この後、若竹七海による編集後記がある。
 短編もだけど、ラストがすごい! こういう構成になってたのか~と納得。あの人はその後どうなってしまったのか、疑問が残ります。デビュー作だけどすでにちらほらと毒が伺えた。もちろん、すっきり爽やかな気分で読める、優しい話もあるよ。しかしやはり毒が……お正月探偵とか……趣味悪いのかな、私。

 

 若竹七海が辺里典幸に、滝沢を殺人した犯人はあなたですね、と言いだした時にはもう。四月から三月まで時系列がまんまだと思い込んでいた鈍すぎる私にはもう。目が覚めるような思いだった。その後、吉祥果夢は確かに姉の話ではあったが、今も姉は生きているし、辺里が犯人説は否定された。
 しかしここで終わったわけではない。最後の手紙の中で、辺里は七海の会社の代表取締役・湯川が滝沢を殺したと疑っていたことを明かす。湯川に不安を与える為に、この小説を書いたのだと。……一遍ごとにきちんと作られている表紙にそんな名前が隠れていたなんて! まあ佐竹のことも忘れていた私だけどね! 本当に小説を読んでいるのかと疑問に思ってしまうね!
 そうそう、「箱の虫」で七海自身がマリンとして出てきたけど、『スクランブル』にもいたっけか? 少なくとも話の主人公にはなってなかった。覚えが、ない……!