Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

麻耶雄嵩『蛍』  ★★★☆

螢

麻耶 雄嵩

 世の中に存在するという意味が段々と怖くなった。考え始めると止処がなくなり恐ろしくなった。まるで宇宙の裏側にいつ辿り着けるか考えている気分だった。六十億の中の一人。部屋を地球だとすると、畳の目一つよりも小さき存在。


 2005このミス10位。これで9/23だね、今のところ。麻耶雄嵩の名前はこのミスで初めて知った。彼もメフィスト賞作家。……メフィストってやつは!(色々溜まっているらしい)
 京都の山あいに佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」。そこは十年前、作曲家でヴァイオリニストの加賀蛍司が演奏家六人を惨殺した舞台であった。大学のオカルトスポット検索サークルのアキリーズ・クラブのメンバー六人は、館のオーナーでありOBの佐世保に招かれ今年も肝試しに向かった。昨年殺人鬼“ジョージ”の餌食となった対馬つぐみのことをひきずりつつも……。しかし、肝試しの翌日第一の殺人が起こる。
 仕掛けられた大きなトリックは二つ。一つは恐らく誰でも気付くほどに違和感があり、最近騙されっぱなしで疑い深くなっている私も薄々感づいていた(でも結局騙されたんだけど)。だが、二つ目は……。種明かしの場面でそういえば! と思い当たる節が沢山あった。
 一人称だか三人称だかよくわからない文章は慣れないうちは読みにくかった。きっちりしてると思えば体言止めや呼びかけが出てきて、統一感ないなあと。計算してあるのねえ。てかエピローグはそうくるのかよ! そんな!
 これを本格ミステリだ、と断言している人もいたが、私はそう思えない。メタミステリってこういうのじゃないのかな? 違うの? 無性に本格ミステリが恋しくなったよ。フェアな立場で事件を見たい……有栖川有栖でも借りてくるか。

 

 語り手が諫早だったら変だろう、というか語り手誰よ? ああ、ほとんど出てこない長崎? ふ~ん……みたいな(何だそれ)。かなりゲーマーな思考回路でしたしね。でもまさか盗聴してるから千鶴との会話が書かれているとは。あそこで腑に落ちないながらも諫早だろうと断定したのに。ワトソン役は諫早だと思ってたのに。騙されちゃったな。警戒してたんだけど。
 千鶴が女のくせに「ボク」を使うのは、もしかしてありかなと思ってた。ネット上では女性もよく俺やら僕やら使いますしね。この事実は長崎しか知らずに、他の人は男だと信じきっていたのか。トイレに逃げ込んだあたりの島原の解説で、ようやく理解した。でも犯人視点って色々とアンフェアよね。
 迷路館の殺人』『人形館の殺人』『ハサミ男(他作品のネタバレになっているので反転)を混ぜ合わせたような印象。