Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

乾くるみ『イニシエーション・ラブ』  ★★★

イニシエーション・ラブ
イニシエーション・ラブ
乾 くるみ

「私、今日のことは一生忘れないと思う。……初めての相手がたっくんで、本当に良かったと思う」
「初めての相手……だけ?」と聞くと、彼女は微笑んで顔を左右に振った。
「ううん。二度目の相手もたっくん。三度目の相手もたっくん。これからずっと、死ぬまで相手はたっくん一人」


 や ら れ た!!
 ここまでやられた感を味わったのは『迷路館の殺人』以来だよ。あ~有り得ない! 2005このミス12位。書評によく、再読せずにはいられないってあるけどその通り! 滅多にしないのにきっちり再読しちゃった。すごいなあ。再読したくなる度は『絡新婦の理』並み、いやそれ以上か。絡新婦は最初に戻れば気が済むけど、本作は全て通さないと駄目。
 大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって……。(カバーより)
 side-Aとside-Bの二章に分かれている。Aはふたりがつき合うまで、そしてBはたっくん就職後の話。どうしてこれがミステリなの? ごくごく普通の、ありきたりな恋愛小説か別に面白くないじゃないと思いきやこのありきたりさまで罠……! 最後に全てをひっくり返され、再読して伏線の大胆さ・見事さに唸り、最終的には女って怖いのねという結論に至りました。そうだ、女って怖いんだよ。
 これを読了した方と語りたい。これも、あれも、伏線なんだね! って。流石メフィスト賞作家……(褒めてる)! 内容や文章の面白さよりも、仕掛けにびっくりしたから星多め。

 

 AとBで、たっくんの性格変わりすぎだよな、とは思っていたけれど。カバーのあらすじも汚いよね。そっから騙しかよ。「学生時代最後の年」って、Aではたっくん・Bではマユか! やられた!
 一人では伏線を回収し切れないんで、読了後書評サイトを回ったら出るわ出るわ納得の嵐。これほど伏線回収が面白かった本も珍しい。P61「タック」は呼び名だったんだね! 指輪、水着、便秘で入院、アインシュタイン、ハードカバーの本、財布、極めつけはホテル。マユは知ってか知らずか「どこかで今日、失恋したカップルがいたってことね」! ぎゃー!(うるさい)
 A・Bって順番かと思いきや、B・A、しかもBとAはかなりかぶっている部分がある。たっくんとなかなか会えなくなったから新しいたっくんを造り上げようって魂胆! 綽名を無理矢理考え出して! 結ばれた夜には初めての男だと堂々のたまうその神経! マユ、あっぱれ。名前が同じだったらボロを出すこともないもんね、辰也のように。マユ捨てられて可哀相だなあ、辰也酷い男! →二股かよ、じゃあ可哀相なのはダブル鈴木じゃない、特に夕樹。女怖い。
 夕樹も東京で就職したのだから、これは繰り返されるのだろうか。ミステリー。