Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

長野まゆみ『碧空』  ★★★

碧空
碧空
長野 まゆみ

「……ぼくは、べつに見透かされることや、どんな人間かを推測されるのを恐れているわけぢゃない。その結果として、嗤われるのなら仕方ないし、有沢さんが云う表面の像に未練があるわけでもない。そんなのは、どうでもいい。……ぼくは、ただ、……有沢さんといるのが怖いんだ」
「なんで、」
「……好きだから、」

 やばい、これ好きかもしれない。腐女子のツボを心得ている。年頃の少年たちの危うさが、何と甘美な事か(頭おかしくなったかな)。前の感想ではミステリの方が云々って書いたけど、取り消します。どっちも好きだ!
 “はなれて暮らすあの人は”――華道の家元を継ぐ原岡凛一は、京都の大学のフットボール部エース・氷川享介に思いを寄せている。シリーズの第一作『白昼堂々』の二年ほどあとの話で、高校生になった凛一は写真部に所属し、一つ上の有沢改と出会う。有沢は凛一をモデルにしたいと申し出た。少年と青年の端境期を切なく描く。
 前作では凛一と氷川が微妙な関係のまま終わった。本作では有沢という曲者の男が凛一の心を乱す。三角関係とまではいかなくとも、それに近い。正午と省子もいるし、祖母は嫁候補を家に住まわせようとしているし……複雑な立場におかれている。
 何がいいってこの中途半端さ。どっちにも振り切れない、それでも時間は経っていく。氷川は二十歳になろうとしているし、千尋は結婚してしまったし。彼らに残されたモラトリアムは幾許か。二人が結びついてしまったらボーイズラブっぽくなる恐れがあるから、現状維持でいいんじゃないかな。氷川は凛一の好意を拒まないで、積極的に仕掛けたりもする。なのに、煮え切らない二人。堪らない(変態め)。
 それにしても長野まゆみは多才ですね。装画まで手がけてしまうのだから。自分で描いただけあってぴったりだし。羨ましい~。