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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

フリオ・コルサタル『悪魔の涎・追い求める男』  ★★★★

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

 

夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。(Amazon

 最近小説も非小説もそこそこ読んでいるんだけれど、小説については版権切れをKindleで読むことが多いのでなかなかメモする気力がわかず。コルサタルの名前は本書の翻訳者である木村さんの『ラテンアメリカ十大小説』で見かけていたのでずっと読もうと思っていて、しかし代表作の『石蹴り』が絶版なので後回しにしていたのだった。夏に日本帰国したとき書店で手に取ったら面白そうだったので買った。

 面白かったです。ネットでの評判がいい「南部高速鉄道」は(不勉強な輩にも)分かりやすく日常と非日常の曖昧さがよかった。子兎を吐き出す「パリにいる若い女性に宛てた手紙」もかなり好きで、でも巻末の解説を見たら子兎が性的象徴であることは明らかであるとあり、別に性的じゃなくても面白かったのに……と思った。笑 それは「占拠された屋敷」も同じで、フロイトの不気味についての分析は納得だが、近親相姦かあ。不気味さへの対処をしないあたりにリアリズム否定なんだな、ラテンアメリカっぽいなーと安直な感想を抱きました、が、フロイトはザ・西欧だったな。ガルシア=マルケスの「十二の遍歴の物語」を久々に読みたくなったよ。

 あと「ジョン・ハウエルへの指示」も好きでした。舞台を舞台にした文章が描くスポットライトを浴びるような高揚感、いいね。短編の名手ということなので『遊戯の終わり』も買ってよみたいです。