Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

オラシオ・カステジャーノス・モヤ『崩壊』  ★★★☆

崩壊

崩壊

  • 作者: オラシオ・カステジャーノスモヤ,Horacio Castellanos Moya,寺尾隆吉
  • 出版社/メーカー: 現代企画室
  • 発売日: 2009/12
  • メディア: 単行本
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軍事政権、ゲリラ、クーデター、内戦、隣国同士のサッカー戦争―人びとを翻弄する中米現代史を背景に、架空の名門一族が繰り広げる愛憎のドラマの行方は?もっとも注目を浴びるエル・サルバドル人作家の作品を初紹介。(Amazon

 面白かったけれどボリュームが足りないかなー。200ページだからサクッと読めるというのは長所でもあるし短所でもある。せっかくだから倍のページ数を費やしてねっとりと書いてほしい……と思ってしまう大きな原因は、直近で読んだラテアメ文学が同じく軍部のクーデターを取り扱ったアジェンデ『精霊たちの家』だからですね。

 三部に別れており、第一部は脚本風、第二部は書簡形式、第三部は第三者による叙述風です。読み始めたときは、まさかずっとこの調子で続くのか!? と思ったが、二部に入ってほっとしました。いや書簡形式も元々好きじゃないんだけど、脚本風はもっと苦手なんだ。しかし前述した通りとにかくボリュームが少ない&それゆえのスピーディさと、内容的には(このへんの知識のない人間にとって)たいへん興味深いことが書かれているため、読みにくさはまったく感じなかった。これは訳者も上手いんだと思う。こないだ『日本語の作文技術』を読んだばかりだからだけれど、そこまで分かりにくい表現はなかったように思う。

 ……と書いてきて、ラテンアメリカ小説に手を出すときにこれほど適した入門書はないんじゃないかと思い至った。これは私にとってだけれど、ラテアメ小説が面白いのってその「ものがたり」性はさることながら、自分が触れたことのない(あるいはふれる機会の少ない)文化圏の生活や歴史が織り込まれているからなんだよね。カトリックへの信仰心の厚さひとつとっても、イギリスはもちろん北アメリカとも色合いが違うし、お恥ずかしながら、ホンジュラスとエル・サルバドルの確執については全然知りませんでした(今Wikipediaを読んでいます。サッカー戦争って)。軍事クーデターが頻発し、作家はとにかく亡命する……そしてスペイン語圏の広さ。ラテアメといえばのマジカルな要素も、少ないながらきちんと入っている。ちゃんと面白い。シンプルな構成と、誰でも読み切れるボリューム。まあ長編の方が面白いとは思うけどね!笑 誰がなんと言おうと『百年の孤独』が面白いのは事実じゃないですか……。

 翻訳者の寺尾さんはものすごいスピードで次々翻訳書を刊行しつつ研究もしている方だそうですね。後書きは短いながらもとてもいい読後感だった。それもあって☆を一つ足した。ご本人の著書も読みたいなあ。

 ちなみに第一刷は1500部らしいですよ! 買わないと次が出せない、という状況をひしひしと感じさせる部数だ。

 「農園」もらえてよかったー!!! これもらえなかったら全然違う読後感だったぞww