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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

江國香織『思いわずらうことなく楽しく生きよ』  ★★★★

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

犬山家の三姉妹、長女の麻子は結婚七年目。DVをめぐり複雑な夫婦関係にある。次女・治子は、仕事にも恋にも意志を貫く外資系企業のキャリア。余計な幻想を抱かない三女の育子は、友情と肉体が他者との接点。三人三様問題を抱えているものの、ともに育った家での時間と記憶は、彼女たちをのびやかにする―不穏な現実の底に湧きでるすこやかさの泉。

 面白かったー。江國作品にしては珍しく続きが気になる展開だった。後半は一気に読んでしまった。麻子の行く末を見届けたくて。

 今回大きなテーマとなっているのがDVで、この描写はかなりつらかった。元々江國作品の夫婦の夫側が妻の外出を嫌ったり、帰宅時にかいがいしく世話を焼いたり(自分で鍵を開けない夫のために玄関に出て行ったり、スーツのジャケット受け取ったりだとか)する描写にはうっとなっていたんだけど、この本は全開だ。

 他の本での夫婦描写も、DV寸前というのを意識して書かれているのだろうか……いや、仕事で疲れて帰って来た人の世話を焼くことを否定しているわけではないのだが、あまりにも一方的で「妻の外出を嫌がる夫」がセットだから(『薔薇の木〜』の水沼夫妻がその典型)、それを強化した『思いわずらう〜』がDVと明言されている以上、どうしたってDV寸前に見える。(友達が、こういう夫婦関係を描くのがこの世代の流行なのではないかと言っていて、川上弘美小川洋子もそうかも、と思った。その中では最年長の山田詠美が、意識的に対抗していることのすごさ……)

 あと夫婦関係によく見受けられるの、セックスレスだね。契約上の夫婦における圧倒的セックスレス。しかし不倫関係では会うたびにセックスをする。この対比……。

 一方で、彼女の姉妹描写はとても好きです。私は姉妹持ちではないので思い切りファンタジーにひたれる。笑 仲が良い同性の血縁って羨ましい。だが夢のある弟(江國香織小川洋子が得意なやつ)が出てくると、ファンタジーすぎて目が覚めるのであった。

 登場人物の中では、私はわかりやすく治子ちゃんが好きで、憧れもしますが、「夫婦間のことは夫婦に関係があるが、夫婦外のことはない」というよく出てくる概念には異論がある。それは関係を結ぶ前に共有しておかないと。

 しかしこれに「感動の長編小説』って説明をつけるのは絶対におかしいと思う。人がどこに感動するのかはそれぞれだが、世間一般の「感動」という言葉がもたらす印象にはそぐわないよ。面白かったです。