Memoria de los Libros Preciosos

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飛浩隆『象られた力』  ★★★★☆

 惑星“百合洋”が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星“シジック”のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に“かたち”と“ちから”の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。(Amazon

 これね、表題作がすごかった! すごかったとしか言えない自分が歯がゆいがすごかったw 最初の「デュオ」がピアノ好きなこともあり面白かったので、中二つはそれなりに面白いけどデュオには及ばないなーと思ってたら、最後に来たね! 小説ってすごいね! 扁桃腺のくだりでは酔った。この肉体はいつ壊れてもおかしくねえなあ、来年もちゃんと生きてるのかなあ私、と思った(笑)いやあ面白かったです。あんま深いこと考えず、描写に飲み込まれるまま一気に読んでしまった。小説って面白いなあ! 小説っていいなあ! 表題作は★五つ。
「デュオ」、ピアノの発表会の夜に読むという大変タイムリーなタイミングw 面白かった。私はSFというよりホラーかなと思ったが、誰かがSFといえばそれはSFなのだし、ホラーもしかりだし、カテゴリわけには大した意味はない。飛さんはあの長編が完結したら読もうとしてたけど、短編集もいいらしいので手を出してみている。ミステリを読んできた割に疑うことをしない読者であるため(笑)、最後のひねりは素直に驚けました。「かれら」のピアノ、ぜひ聴いてみたいもんだ。ホロヴィッツの調律についての小ネタも面白かったな! 音の高低で性質を変えてたんだ!
 収められた四つの短編全て人を描きつつも人でないものが主役みたいな話で、表題作は形と力がそれなんだけど、エンブレムやタトゥーや紋様といった非常に視覚的なものを、文章でもって強力に表現してるんだよな。読書量が少ないながらも、滅多にない体験だったなー。