Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』  ★★★★☆

ヴィーナス・プラスX (未来の文学)
ヴィーナス・プラスX (未来の文学)
Theodore Sturgeon,大久保 譲

 チャーリー・ジョンズが目を覚ましたのは、謎の世界レダム。銀色の空に覆われ、荒唐無稽な建物がそびえ立ち、奇天烈な服を着た“男でもなく女でもない”住人が闊歩している世界だった。故郷に戻りたがるチャーリーに、レダム人たちが持ち出した交換条件は「あなたの目で私たちの文明を評価して下さい」。彼は承諾した。自分の本当の運命も知らずに―異空間での冒険とアメリカの平凡な家庭生活の情景を絶妙に交錯させながら、スタージョン的思考実験が炸裂する! ジェンダーの枠組みをラディカルに問い直した幻の長篇SFがついに登場。


 すげえええ! すげえ! スタージョンの長編ってどんなだろ、と読んでみたらやっぱりすごかったという。こええ! 短編より坂は緩やかで、主人公の境遇的にも読者が入り込みやすいようになっている。しかし最後につきつけられる嫌悪! すげえ!
 チャーリー@レダムと、1950年代アメリカ夫婦の日常とが交互に(といっても割合は比べ物にならないほどチャーリー>夫婦)出てくる。しかし後者がその時代の夫婦っていうの、私はあとがきで知ったよ(笑)この人たち何なの? 第一世代? と無駄にかんぐってしまった。
 恩田陸黒と茶の幻想』に続いてジェンダーを考えたよ。本書が執筆されたのは1960年。当時と比べ「ラディカル」さは確実に落ちてる。私が好きなSF漫画家の清水玲子がしばしば両性具有やセクスレスな生き物を描くこともあって、そもそも同性愛に対する嫌悪を持ち合わせていない私は、両性具有に対しても別段おぞましさを覚えない。両性具有が完璧とみなされることもあるよね? 人間は元々両性具有であって愛によって昇華するのだ云々いう考えを授業で聞いたような。
 本文中にマーガレット・ミードの名前がたくさん出てきた。参考文献には、ルース・ベネディクト『文化の型』もあった。解説にはボアズやジェームズ・クリフォードが出てきた。他者を通して自分を発見するというのはまんま人類学で、わけもなく嬉しくなってしまった(笑)人類学のもたらした知見は様々なところに影響を及ぼしたんだなあ! ミードの切り拓いたジェンダー観は革新的だったんだろうなあ! 文化人類学をかじる者として、わくわくを抑えられなかった。
 へー、人類学とSFの親和性は高いのか。ル=グィンがクローバーの娘だというのはこないだ知って驚いたわ。宇宙や物理化学への一般的興味は元からあるし、私はもっとSF読んでてもよかったんだよな。一直線にミステリに行ったからな。

 

 っていうかどうしてみんな男になるの? 男同士だけじゃないよね? 男を改造した両性具有と、女を改造した両性具有がいて、組み合わせは男男・男女・女女の三通り。なのにチャーリーは男同士の同性愛しか見ていない。人類=MANだからかしら。自分が男だから、ホモソーシャルに属しているから、男同士に対する嫌悪が女の存在を忘れさせてしまうほど強いってこと?