Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

恩田陸『黒と茶の幻想』  ★★★★

黒と茶の幻想 (Mephisto club)
黒と茶の幻想 (Mephisto club)
恩田 陸
 目の前に、こんなにも雄大な森がひろがっているというのに、あたしは見えない森のことを考えていたのだ。どこか狭い場所で眠っている巨大な森のことを。学生時代の同級生だった利枝子、彰彦、蒔生、節子。卒業から十数年を経て、4人はY島へ旅をする。太古の森林の中で、心中に去来するのは閉ざされた『過去』の闇。旅の終わりまでに謎の織りなす綾は解けるのか……? 華麗にして「美しい謎」、恩田陸の全てがつまった最高長編。

 うまいね! 当たり外れの大きい作家だけど、これは当たりだな! あまりファンタジックな舞台を用意しない方が恩田さんのよさが出ると思う。『ネバーランド』と並んで『ロミオとロミオは永遠に』をベストに推す私ですけど(笑)『失われた楽園』のがっかり感が忘れられないんだ多分。
 この本は『ネバーランド』『木曜組曲』型だよね。腹に一物抱えた人たちが集まり、それらを露わにしていく。視点は移ろい、絶対の確固たる真実はない。それぞれの人にとって複数の真実がある。後出しジャンケンじゃないけど、後に視点を受け持った人の方が頭がよく見える(笑)
 本を読みながら色々考えてしまったよ。私は恩田さんとは時代が違うんだな。いくつか「違うだろー」って引っかかる箇所があったので。あまりに男女というカテゴリに囚われすぎている感があった。社会面じゃなく考え方ので。ジェンダーセクシャリティについて軽くまとめなくちゃいけなかったからさっと浚ったんだけど、そこらへんは最近議論されるようになった新しい分野だもんね。
 私はなるべく囚われないようになりたいと考えてるんだけど、この本を読んで「女性の書いたものだ」、特に彰彦と蒔生の一人称にはそう思ったということは、二項対立に縛られているんだな。小説にしろ漫画にしろ、作者の性別は気にするし。そういう文化に育ったから仕方ないというべきか。でもさあ、ドレッシーとかツーピースって言葉、男性作家の男性一人称小説でなかなか見かけないよ(笑)それこそよしながふみフラワーオブライフ」の春太郎だよ。
 でも、この人は本当に(オタク)女性の好む男性造詣がうまいよね! 心の底から褒めたいよ! ここまでくるとあっぱれだよ! 彰彦と蒔生ってその典型じゃない! ついでに言うと私は断然前者です。
 すごく個人的なイメージでは、恩田陸って私の中の「女性作家」の筆頭だ。感情的……という言葉で括るのは間違いかもだけど。昨日読んだスタージョンは逆にこれぞ男性という印象を受けたな。両者の持ってる目の離せなさをスタージョンとの比較で言えば、スタージョンは急でまっすぐな坂を駆け下ってく感じで、恩田さんは徐々に角度を増す丸みを帯びた地面に足を踏み出したら思ったより深かった感じかな。我ながら言語化が下手だ。恩田さんの本は一言で言えば蟻地獄です。

「他人に打ち明けることがストレスになるタイプの人がいる」「一人旅をする人としない人がいる」あたりの話題は共感しながら読んだ。私は面と向かって他人に弱みを晒すのなんて真っ平ごめんだし、自分の問題は自分で解決したいし、何かを打ち明けることを関係深化に繋げる構造は嫌いだけど、誰が読んでるかもわからないブログに吐き捨てることはストレス解消になる。一人旅は他人に謝る必要も感謝する必要もないところが気楽で好きだな。私は私のことだけ考えてればよくて、嫌な思いもいい思いも全部一人占め。