Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

三浦しをん『きみはポラリス』  ★★★★☆

きみはポラリス
きみはポラリス
三浦 しをん

「俺の考える本物のロハスはこうだ」
 と俊明が言った。「死期を悟った時点で富士山頂に上り、ご来光とともに切腹する」
「な、なんで」
「なんででもだ。そして己れの内臓をつかみだし、『有機栽培の礎とならんことを……!』と祈念して息絶える。死体は当然、肥料に使ってもらう」
「それ、絶対にロハスへの理解がまちがってるよ」(優雅な生活)


 最初と最後の短編に全てを捧げてもいいと思った。さすが三浦しをん、絶妙なさじ加減! これが読みたかった! もっとこういうの書いてくれ! 彼女は男同士・女同士の絶妙な関係を描いてくださいますね。男女でもそれは変わらない。よしながふみのようだ。一生ついてくよ。
 永遠に完成しない二通の手紙:岡田のアパートに、友人・寺島が上がりこんできた。ラブレターを書くのだそうだ。
 裏切らないこと:嫁が赤ん坊の息子のペニスを口に含んでいるところを、俺は目撃してしまった。
 私たちがしたこと:喫茶店でバイトをする私。常連客の古橋さんが妙に気になる。私が恋をしないのは、あの日、黒川くんと私がしたことが忘れられないから。
 夜にあふれるもの:真理子がおかしいのは昔から。キリスト教の学校に通っていたころ、彼女はミサでエクスタシーを経験していた。
 骨片:女でありながら大学を出、家業を手伝う私。師事してくれていた先生が、突然亡くなってしまった。
 ペーパークラフト:結婚して五年になる始と里子。ある日、夫の後輩であるという勇二を紹介される。彼はペーパークラフト作家だった。
 森を歩く:うはねが捨松と出会ったのはパーティ会場だった。何をして生計を立てているのかわからない捨松と、もう二度目の夏を迎えた。
 優雅な生活:ロハスを実践しようとするさより。同居人の俊明は、それをうそ臭いと一蹴する。
 春太の毎日:春太は麻子が大好き。例えパイプカットなんて提案されてもだ。
 冬の一等星:たまに、車の後部座席で眠る。八歳の冬のこと、私は文蔵に車ごと誘拐された。
 永遠につづく手紙の最初の一文:岡田と寺島。文化祭にて。
 全編通し、素敵にユーモアがきいていてとても楽しめました。でも関係性がメイン!

 

 話が合って一緒にいて楽しい相手というなら、岡田にとっては寺島もそうだ。寺島だって、たぶん岡田のことをそう思っているだろう。それなのに、女とはセックスし、ずっと長い時間を過ごしてきた寺島とはセックスしないのは、変ではないかと感じた。セックスするか否かは、結局は性別で決まるのか。だとしたら、一緒にいて楽しいと思う気持ちや過ごした時間には何の意味があるのか。

 ごめんな、寺島。俺はいつもこうだ。友だちのふりをして、友だちじゃない。おまえの幸せを願ったことなんか一度もない。たとえばいつかおまえが結婚しても、俺はなにくわぬ顔でおまえんちに行くだろう。口ではおめでとうと言い、祝いの置き時計かなんかを私、おまえの奥さんとも仲良く話しながら、心のなかではおまえの新居じゅうに呪いの五寸釘を刺すだろう。別れろ別れろ別れろ。(永遠につづく手紙の最初の一文)