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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

紅玉いづき「ミミズクと夜の王」  ★★★☆

ミミズクと夜の王
ミミズクと夜の王
紅玉 いづき

「なんでだろう。わかんない。たくさん嫌だーって思ったよ。痛いのやだし、苦しいの嫌だったよ。誰かが手を差し伸べてくれる夢、何度も見たあ。んでも、なんでだろ」
 思えば本当に不思議でたまらない、というようにミミズクは首を傾げた。
「なんでだろうねぇ。逃げようと、したこと、なかったなあ」
 だって、そんな毎日だった。そんな毎日が普通だった。普通だと思ったら、苦しいのも、つらいのも、それはそれ、他にやりようがないような気がしたのだ。


「白状します。泣きました。奇をてらわないこのまっすぐさに負けた。チクショー」とは有川浩の解説ですが、私もまったく同じ感想。泣きました。チクショー。
 魔物のはびこる夜の森に、一人の少女が訪れる。額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖。自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。願いはたった、一つだけ。「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。全ての始まりは、美しい月夜だった。――それは、絶望の果てからはじまる小さな少女の崩壊と再生の物語。(カバー折り返し)

 

 なんて、わかりにくいんだろう。なんて、ひねくれていて、なんて、不器用なのだろう。
 それなのに。
(優しくされていたんだ)
 ミミズクにはわかった。
(ミミズクは、ずっと、精一杯、優しくされていたんだ)
 それが、わかった。
 温かい雫が落ちた。哀しみではない涙が、ただ流れた。

 言わなければならないことが、たくさんある気がした。ありがとう、ごめんなさい。ありがとう。
 そんな言葉で足りるのだろうかとミミズクは思う
 どうしてだろう、こんなにも、言葉は教えてもらったのに。
 言葉は、覚えれば覚えるほど、足りないような気がするのだった。

「己の言葉の意味が。わかっているのか。たとえどんなにお前が長く生きたとしても……お前は、私を残し、死んで行くのだ」
「うん、そうだね」
 にっこり笑って、ミミズクは頷いた。
 寿命の違いなんて、わかっていた。永遠なんてないと。それでも。
「でも、傍にいるよ」
 当然のことのように、ミミズクは言った。
「ずっと、ずっと傍にいる」
 そうしてミミズクは優しく笑んで、両腕を広げた・
「死んだら食べて、なんて、そんな無茶はもう言わないけどね。だっておばあちゃんになっちゃったらきっと美味しくないだろうしねぇ。でもねでもね、たとえばあたしが死んだら、土に還るよ」
 ミミズクはふくろうのその綺麗な瞳を見上げた。
「あたしが死んだら、この森の土に還って。土になり、花になって、あなたの隣で咲くんだわ。……ずっと、ずっと、傍にいる」


 涙だだ漏れ。