Memoria de los Libros Preciosos

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本多孝好『正義のミカタ』  ★★★★

正義のミカタ―I’m a loser
正義のミカタ―I’m a loser
本多 孝好

「豊かさはそこまで行き着いちゃったのさ。自分は満足している。そのツギにはどんな欲求が生まれるか。他人の満足を否定したくなるんだよ。お前はそんなところで満足しているのか。俺はもっと上にいるぞ。その感覚がその人を満足させる。自分の中で行き着いて、一度消えてしまった満足は、もう他者との比較の中でしか生まれない。僕も君も、彼らだって、置かれた状況の中で生存することはできる。けれど、その中で生きていくことはできない。一生、他人の満足のネタにされて生きていくなんて、できるわけがない」


 何年ぶりの新刊ですか?笑 まだ作家やってらしてよかったですよ。
 とにかく読みやすい。私が大学生だからかもしれないけど、この文章のさらさら感は信じられない。本多さんの文体はものすごく好き。
 高校でいじめにあっていた亮太は、同級生が誰もいないような大学に努力して入学する。明るい大学生活が始まると思いきや、そこにはいじめの主犯格だった畠田という奴が。ぼこられているところを、同じ語学のクラスのトモイチに助けられる。彼が亮太を連れて行ったのは、“正義の味方研究部”。
 正義って、そんなものを語れるような人間じゃないけど。最近私生活で絶望することがあって、しかもそれは他でもない自分に絶望しているわけであって、他のものに押し付けられなくてぐるぐるしていたところに、この本を読んだらすーっと落ち着いて、どうにかなるよなあ、私生きてるしなあ、と思えたのでよかった。読んだタイミングがよかった。
 ストーリーそのものは微妙かなあ。何とも言えない後味。悪い方の割り切れなさ。でも爽やか。本多さんならでは? 亮太のお父さんは軽く反則だと思う。泣いてた。私は本多さん、こんな人なのかなあと重ねながら読んでいた。何となくね。
 本を読まない弟が一生懸命読んでいたわけがわかった。彼は受験生だ。私は大学生で、この先のレールはすでに決まっているのかもしれないけど、それなりに楽しくやってるから、いっか。

 

「いじめられるのに強いのも弱いのも関係ないさ。強さと弱さが試されるのは、いじめられたそのあとだ。お前はそれを乗り切った。たった一人で乗り切った。お前は、強いんだよ」
 ごめんな、と父さんは呟いた。
「父さん、何も助けてやれなかった」
「いいよ、何、言ってるんだよ」と僕は言った。「だって、大学に行かせてくれた」

「どうしたのさ、それ」
「一馬先輩だよ。やり合った」
「どうして?」
「あいつが俺のダチをボコボコにしやがったからだ」
 僕は空を見上げるトモイチの横顔を見た。
 俺のダチ? それは僕のことか?
「ボコボコにって、だって、トモイチだってやったじゃないか」
「あいつもそう言った」とトモイチは頷いた。「俺の可愛い後輩をボコボコにしただろうって。だから喧嘩になった」