Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

絲山秋子『沖で待つ』  ★★★

沖で待つ
沖で待つ
絲山 秋子
「子供は、そこで人生を知るんです」
 水谷は真面目な顔で言った。私は吹き出した。
「やな人生だね」
「他人事じゃありませんよ。私達もう、カイコ蛾になっちゃったんですから」(勤労感謝の日

 134回芥川賞受賞作。ここにきてようやく、って感じだったね。私はまだ彼女の本三冊目ですけど。
 勤労感謝の日:恭子は無職の三十六歳。「命の恩人」長谷川さんが、見合いの話を持ってきた。やってきた野辺山氏はどうにも嫌な人物で……。
 沖で待つ:三ヶ月前に死んだ、同期の太っちゃん。二人は入社後、ともに福岡に転勤して以来の仲だった。どちらかが死んだら互いのHDDを破壊する約束をしていた。
 「勤労感謝の日」はいわゆる負け犬女性が主人公。しかも無職。初め読んだ時は気分の悪い話だなあって思ったけど(笑)、読み直してみると何だか痛快だった。野辺山氏みたいに仕事しか趣味のない男なんてクソ食らえだ! 食べっぷりの悪い男もクソ食らえだ!笑 明日からもどうにか生きていかねばね。
 受賞作の「沖で待つ」はすこし・ふしぎで優しい話。どこらへんが芥川賞の決め手なのかよくわからないけど、『ハリガネムシ』や『蛇を踏む』とかよりは好きかな。私も就職したら太っちゃんみたいな同期がほしいなあ。んでもって死んだらHDD破壊してもらうの。ほんと、私の(恥)全てがPCに詰まっているといっても過言ではない。