Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

恩田陸『チョコレートコスモス』  ★★★★

チョコレートコスモス
チョコレートコスモス
恩田 陸
 まさか。まさかそんな。神谷は混乱し、客席も混乱した。恐怖に満ちたざわめきが、客席に渦巻き、オーケストラの演奏と重なり合う。
 少女は動かない。顔のないマネキン人形のように、こちらを向いてじっと立っている。
 ひょっとして、あれは、本当に人形なのでは? 暗闇の中から人形を光の下に押し込んだとか?

 響子は、あらゆることに腹を立てていた。弱気な自分、欲しいものを欲しいと言わない自分、お高く留まった自分、恵まれ、自惚れている自分。
 ええ、そうよ。あたしは本当は欲しかったのよ。

 息継ぎなんてさせず、一気に読ませてしまうストーリーテリングはすごいとしか言いようがない。恩田陸の引力すごい。私も風呂が段々温くなるという障害がなかったら息継ぎなしでいけたのに……!笑
 「まだそっち側に行ってはいけない。そっち側に行ったら、二度と引き返せない」幼い時から舞台に立ち、多大な人気と評価を手にしている若きベテラン・東響子は、奇妙な焦りと予感に揺れていた。伝説の映画プロデューサー・芹澤泰次郎が芝居を手がける。近々大々的なオーディションが行われるらしい。そんな噂を耳にしたからだった。同じ頃、旗揚げもしていない無名の学生劇団に、ひとりの少女が入団した。舞台経験などひとつもない彼女だったが、その天才的な演技は、次第に周囲を圧倒してゆく。稀代のストーリーテラー恩田陸が描く、めくるめく情熱のドラマ。演じる者だけが見ることのできるおそるべき世界が、いま目前にあらわれる!(Amazon
 演劇って一度も見たことないな。一度は見ておきたい、と思わせられた作品でした。
 登場人物結構いたけど、そんなにいなくても大丈夫そうだよね。わたしはひたすら響子を応援してた。特別なものを持たない私は、演劇界のサラブレッドなんて妬ましいけど、嫉妬や羨望の描き方がよかったので。
 オーディションでは同じ場面を何度も繰り返すけど、飽きずに引っ張られたな。神谷や巽と一緒にぞっとしたり鳥肌立てたりして。恩田さん恐怖や不安を煽ることにおいては天才的じゃないですか。
 恩田陸は物語を死ぬほどうまく展開させるくせに、収束させるのがイマイチな時がある(最たる例は『失われた楽園』)けど、本書は良い方かな? この先が見たいんだよーとは思う。これから面白くなりそうじゃない。飛鳥についてはあんな不穏なこと言ってたくせに、大して響いてない。続きが読みたいよ。響子についてはバレバレでしたね(笑)
 どうやら続編があるみたい。ここで終わらせたら勿体無いものね! まだ序章って感じだし。