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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

石持浅海『顔のない敵』  ★★★☆

顔のない敵
顔のない敵
石持 浅海

 対人地雷は、殺す兵器ではない。死亡者も数多く出ているが、基本的には殺さずに大怪我をさせることが目的だ。敵の兵士を負傷させ、その兵士の運搬や治療に別の戦力を割かせる。一人の負傷者を後方に送ろうと思えば、最低二名の兵士が担架で運搬しなければならない。それで合計三名の敵兵力を削減できる。それと同時に、被害者がもがき苦しむ姿を他の兵士に見せつけることで、敵の兵士全体に恐怖心を植えつけられる。単純に踏んだ人間だけを殺すよりも、はるかに有効な攻撃方法といえる。対人地雷とは、かくも陰湿な兵器なのだ。(顔のない敵)


「対人地雷」をテーマにした、石持浅海の原点ともいうべきミステリー6編と、処女作短編で編まれたファン待望の第一短編集、らしい。300ページ足らずの本書には七つの短編が収められているので、それぞれはとても短い。飽きずに楽しく読めた。
 石持さんの本は5/7だから結構読んでるけど、長編になるとまだるっこしいほど登場人物たちが議論を交わすんですよね。いわゆる「探偵」は出てこないから、皆で考えるの。物理的な面よりも心理的に可能不可能を検証するため、短気な私なんかは苛々してくる。しかし本書は一つ一つが短いのでさっくりいけた。スマートです。もっと短編書けばいいのに。
 地雷原突破:地雷の国際会議にあわせての市民集会で、イベントを開催することになった「支援の会」。擬似地雷原をステージに作り出し、市民に体験してもらうことにしたのだが、司会者がデモンストレーションを行ったら地雷が爆発してしまった。
 利口な地雷:「スマート地雷」の開発現場である工場に自衛官とジャーナリストが赴いた。二人の作業員から話を聞いていた途中、席を立った一人が倉庫で殺された。どうやら罠が仕掛けられていたようだ。
 顔のない敵:カンボジアで坂田とペアを組み、地雷除去にはげむアネット。地雷によって右足を切断した少年・コンや、元軍人のジム、医師のマーガレットらもともに頑張っている。ある日、彼らと付き合いのあった地元の名士であるチュオンが、地雷を踏んで死んでしまった。
 トラバサミ:交通事故で死んだ被害者は「支援の会」メンバーだったのだが、、自宅でトラバサミを製造していた。材料や生前の姿から類推すると、そのうちの一つは日本国内に設置されたのではないかと思われた。
 銃声でなく、音楽を:スポンサー確保のためPRに出かけたサイモンと坂田。プレゼン室に向かっていると銃声が聞こえ、中では男が一人死んでいた。しかし中にいたもう一人の人間である女社長は、警察への通報を後回しにする。
 未来へ踏み出す足:地雷除去ロボットのテストを現地で行うために、三人の開発員と記者・綾子がカンボジアのコンのもとを訪れた。一晩明けた翌日、三人のうち一人が死体で発見される。頭部はロボットの使用する接着剤で固められていた。
 暗い箱の中で:地震で停止したエレベーターには、同じ会社で働く男三人・女二人が乗っていたが、暗やみで、女がナイフで胸を刺され殺される。なかなか動かないエレベーターの中、残った四人は推理を展開するが……。
 フェアな本格ミステリとお見受けしたので推理しようと頑張ったけど、徒労に終わりました。むむー、私には論理パズルを解くのも人の心を読むのもできなさそうだ(笑)
 確かに地味目だけどこれくらいあっさりしてるのも好きだなあ。最後のデビュー作もよかったし。
 あとがきに「読者の方が最初の数行で投げ出してしまわないような、関心を持たせる設定が必要なのですね」とあるんだけど、そのせいか話のはじめに導入部(?)があることが多い。何が起こったんだろう、と気にかけさせておくのね。乱用すると慣れるから、ほどほどにするのがいいと思われます。
 今現在、地雷撤去作業が本書にあるようにロボットで行われているのか、どの程度作業が進んだのかなど、地雷についての知識はゼロで読んだ。無知ですね。世界で多くの人が奮闘してるんだなあ……カバー折り返しにあるようにフィクションが地雷に対してできることは間違いなくあると思う。人に関心を持たせることは、大きな第一歩。

 

 全ての事件で犯人は警察に捕まることはないのね。それもすごい話だな。