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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

江戸川乱歩『鏡地獄』  ★★★★☆

鏡地獄―江戸川乱歩怪奇幻想傑作選
鏡地獄―江戸川乱歩怪奇幻想傑作選
江戸川 乱歩
 なぜといって、彼女の願いをしりぞけかねて、私がその鞭を彼女のなよやかな肉体に加えたとき、その青白い皮膚の表面に、俄かにふくれ上がってくる毒々しいミミズ脹れを見た時、ゾッとしたことには、私はある不可思議な愉悦をさえ覚えたからである。(陰獣)

 なんかもうすげえとしか言えない。ゾッとしたのはこっちです。いかがわしいのが読みたい気分だった私を、満足させるだけじゃ飽き足らないのね。強烈すぎて。いいもの読ませていただきました。
 人間椅子:作家の佳子のもとに送られて来た、署名のない原稿。書き手の男は自らの罪を告白しようとしていて……。
 鏡地獄:Kには一人の不幸な友だちがいた。彼は子供のころから、物の姿の映る物、ガラスやレンズや鏡に偏執的な愛を持っていた。
 人でなしの恋:変人と噂される門野家へ嫁入りした私。半年もたったころから、それまでぱたりとやんでいた夜中の土蔵通いが復活し……。
 芋虫:以前読んだため割愛
 白昼夢:むし暑い日の午後大通りを歩いていたら、女房を殺したという男が何やら弁じていた。
 踊る一寸法師一寸法師の禄さんは下戸なのに酒を飲まされ……。
 パノラマ島奇談:菰田家の所有するM県のとある島に、奇怪千万な光景が光景が造り上げられようとしていたが、完成の直前に頓挫してしまった。その背景には世にも不思議な物語があった。
 陰獣:暗闇の中で、息を殺して、石のようにだまり返ってジッとうかがっている陰獣の目。私は、お前の影になり切っている。たえまなく、お前を凝視しているのだ。幸せをつかんだ女のもとに、捨てた男の執念の脅迫状。その直後、隅田川に浮かんでいた夫の腐乱死体。熟れた女の白い肌にきざまれたミミズ脹れの鞭あとの謎は……。(Amazon
 解説によると、乱歩には本格ミステリと、怪奇幻想小説の二つの系統があるらしい。本書は怪奇幻想小説からよりすぐりの逸品を揃えました、という短篇集。どれも濃ゆいために最後は食傷気味になって文字を追う目が進まなくなったけど、それも乱歩がすごいから(笑)こんなのばっか読んでたらいい加減悪酔いもするでしょうよ。それほど素敵。
 一番は人間椅子かな。どこまでほんとなのかわからない、白黒はっきりつかないオチ、乱歩好きだよね。