Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

倉知淳『星降り山荘の殺人』  ★★★★

星降り山荘の殺人
星降り山荘の殺人
倉知 淳

 男が喋っている。和夫も、テレビで見慣れた顔だ。彫りの深い、日本人離れした甘い顔立ち。顎はギリシャ彫刻のようにすっきりとなだらかなラインを描き、眉は柳さながら優美に美しく、その黒い瞳はどこまでも深く、黒曜石の湖のごとく知性的。軽くウェーブのついた髪が秀でた額にかかった様は、まるで若い天才画家みたいな憂いと儚さを醸し出している。


 (↑榎さんを思い出してしまった。どんだけ美しいんでしょう)
 騙されたー!!!
 秋になって気分が乗ってきたから本格ミステリを読もう、と思った。どこかでお薦めされていたので、倉知淳にチャレンジすることに。倉知といえば猫丸先輩シリーズが先に頭に浮かぶんだけど、あれって短篇集だったっけ(不確か)? 今は長編が読みたい、できれば典型的なものを求めていたので本書にした。結果は、正解でした。一度しか使えないだろうけど鮮やかに裏切られたので満足。久しぶりの本格ミステリだった、てのも楽しめた大きな要因かな。
 仕事のトラブルから、スターウォッチャーという怪しげな肩書きの星園詩郎の付き人に指名された杉下和夫。最初の仕事はキャンプ場のイメージキャラクターとして宣伝のため、埼玉奥地のコテージに泊り込むことだった。依頼者の岩岸豪造と部下の財野政高、作家の草吹あかねとマネージャー早沢麻子、UFO研究家・嵯峨島一輝、女子大生のユミと美樹子を合わせて総勢9名が集まったが、そんな雪の山荘で殺人事件が起こり……。
 この肌が粟立つようなサプライズのためにミステリを読んでしまう。最初のページを捲ればわかるけど、シークエンス(わからないから辞書を引いてしまった)ごとに作者のコメントがあるので、これは読者への挑戦タイプか……! 騙されるものか! と奮い立ったのに。だって「重要な伏線がはられている」とかあったりするのよ!
  十年前という微妙な昔に書かれた本なので、携帯を持っていない人がいる反面、ポケベルを持っている人がいるというジェネレーションギャップ(笑)を抱きつつ、平易な文章を読み進めていった。ワトソン役である主人公が単純だからかな。「『本格の鬼』を自認するミステリファンから若葉マークつきのミステリ初心者まで、誰が読んでも楽しめる、そんな一品に仕上がったと自負しております」という著者のことば(残念ながら文庫にはなく、西澤氏が解説で述べているのみ)は、ミステリの大海をあてもなく漂っている私にもきちんと楽しめた。
 あと好きだったのは、西澤保彦の解説かな。読んでてにこにこしてしまうくらい、本格ミステリと著者に対する愛が伝わってくるので。一冊も読んだことないけど探してみようかしら。倉知淳の自称している「パロディー作家」という肩書きも好きだ。『日曜の夜には出たくない』の解説より引用された「ばかな話ですけど、笑ってください」という言葉も好きだ。何となく親しみやすくていいひとな香りが漂ってくるなあ、倉知淳。次は猫丸先輩シリーズだ! 都築道夫『七十五羽の鳥』も覚えておこう。

 

  まさか麻子が探偵だったなんてね……! 単純ばかな私はすっかり和夫と一緒に縮こまってましたよ、さあ、誰だ燻し出されるのは、と。燻し出されたのは星園かー!! 確かに探偵登場シーンで麻子もしっかりいるんだよね。人の思い込みを利用してるだけでとってもフェアですよね。くそー……。
 星園が推理はじめたときのコメントはあくまでも「星園」だったもんな。麻子だと「探偵役が真犯人を指摘する」でしたね。くそー……(二度目)
 ピッケル、気になったことは気になったんだけど……交換ってのもあるとは思ったんだけど……ミステリーサークルが雪を水として利用するためだったとは。煤か! ミステリーサークルが攪乱のため、とはなかなか信じられませんでしたが探偵だと思っている人にそう言われたら、あっさり信じちゃったよ。
 宴会で財野の地が見えて和んでいたところに、殺されたのはちょっとショックだった(笑)和夫、お前がいくら気をつけていてもきっと無理だったよ。星園だけは信じていただろうからな。ああ悔しい。
 麻子が「よく判りました、語るに落ちましたね――星園さん、犯人はあなたですね」と云った瞬間、あのコメントに頼り切っていたので、麻子の苗字って星園だったっけ? 同じ苗字が二人? え、そんなまさか? とか限りなく頭悪いことを考えたのは私です。