Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

コルネーリア・フンケ『どろぼうの神さま』  ★★★☆

どろぼうの神さま
どろぼうの神さま
コルネーリア フンケ, Cornelia Funke, 細井 直子

 大人はよく
 子どものころはよかった、という
 それでまた子どもになることを、夢見たりもする
 でも、ほんとに子どもだったころは、いったい何を夢見ていたんだろう?
 なんだと思う?
 早く大人になりたい、そう思っていたんじゃないかな


 ネット上でタイトルだけは聞いたことがあったんだけど、某ブックガイドに載っていたので思い切って借りてみた。この手の児童文学を読むの、すごい久しぶりだった。イタリアを舞台にしているけど、作者はドイツ人。ドイツ文学=児童文学みたいなイメージがある。元々イラストレーターだったようで、本書の絵も彼女のもの。表紙のスキピオがかっこいいなあ。
12歳の少年プロスパーと5歳になる弟のボーは、読書好きの少女ヴェスペやその仲間たちと、廃墟となった映画館で暮らしていた。兄弟は、2人を引き離そうとする伯母夫婦から逃れるため、ヴェネチアまで家出してきたのだ。そんな身寄りのない子どもたちのリーダーは「どろぼうの神さま」と呼ばれる少年スキピオスキピオは、金持ちの家や美術館に忍びこんでは、高価な品々を盗み出す怪盗だ。しかし、伯母夫婦から依頼を受けた探偵ヴィクトールの出現によって、子どもたちの生活に、少しずつ変化が訪れる。(Amazon
 字は大きいけど500ページに及ぶ長編なので、時間がかかった。小学生の頃大好きだった海外の児童文学を思い出して懐かしくなった。挿絵の雰囲気もまさにそう! 子どもが子どもだけで生活していく、これは誰もが一度ならず夢見たことでしょう。私の場合はいつも西欧・北欧が舞台でしたが。
 どろぼうの神さまを自称するスキピオ。彼が素晴らしく素敵な人物だった。詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるけれど。プロスパーのボーに対する過保護っぷりもかわいい。いいお兄ちゃんだ。てか、ボーは天使の顔をした小悪魔だよね。大声で泣くってのは一種の脅しじゃん(笑)しっかりもののヴェスパは本当に良い子。リッチオとモスカ、ヴィクトールとイダもナイスキャラクターでした。
 携帯電話が出てくるから割と最近の話なんだろう。水の都・ヴェネツィアは今もこんな、御伽噺の国に迷い込んだような雰囲気を保っているのかしら。沈む前に一度は行きたい!
 飽くまでも現実の話なのかと思いきや、鮮やかにファンタジー要素を取り入れていく。でも違和感はない。いや、ちょっとだけある(笑)
 これで幸せなのかなあと思われるラストだけれど、“幸運に恵まれた者”なんでしょうね。ニヤリとしちゃうわ。自分が子どもだったころ読んでいた本を思い出すには最適の一冊。

 

 スキピオは大金持ちの子どもで、家から色々盗んでいたのだった。彼はどろぼうの神さまなんかなじゃない。そう気づいたときの子どもたちは深く傷ついて、スキピオに対する反応は素直で率直。私は全てを白日の元にさらされた時のスキピオの痛々しさが見ていられませんでした。涙をこらえるスキピオ。父の前では弱く、いうことを聞くしかない彼。でも皆の前ではいきがっていた……か、かわいい(笑)屈折したものを抱えている子どもってどうしてこんなに魅力的なんでしょう。
 メリーゴーランドはほんとに作用しちゃうのね! コンテと妹は子どもに戻り、スキピオは念願の大人になることができた。しかしバルバロッサのせいで二度と子どもに戻れなくなってしまった。バルバロッサはボーより小さな子どもになっちゃったし。児童文学も幸せなばっかりではない。まあ、スキピオは大人になった自分を気に入っていたみたいだけど。
 それにしてもイダがいい人でよかったねえ。最後にはプロスパーとボー、ヴェスパは一緒に暮らすんだから。めでたしめでたし。リッチオとモスカにはしぶとく生きていってほしい。ヴィクトールとスキピオもうまくいっているみたいだし。バルバロッサは……ニヤリ、だわ(笑)