Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

豊島ミホ『夜の朝顔』  ★★★

夜の朝顔
夜の朝顔
豊島 ミホ
 あの頃の記憶には「しこり」が多い。楽しいことだってたくさんあったはずなのに、思い返すと、砂利を噛んだような気分になります。特に不運な環境にあったわけでもないのに、なぜでしょう。(あとがき)

 どこでオススメされてたのか忘れてしまったけど、ヤングアダルトの棚にこの本がおさまっていたのは知っていた。青一色のカバーにタイトルと著者名。ヤングアダルトの波が来ていたので借りてみた。
 爽やか一辺倒かなあ、と思っていたらあとがきにもあったように「しこり」のある話がほとんど。そうなんだよねえ、あの頃を思い出すと何故か楽しいことより面倒だった人間関係とか喧嘩とかが先に出てくる。毎年の遠足の行き先は覚えてないけど、六年生時の林間学校でのいざこざは映像が浮かぶほど鮮明に覚えている。団体行動を学ぶのはきっと小学生だから、この時期から「しこり」が徐々に生まれてくるんだろう。小学校以降はもはや「しこり」なしでは生きていけないよ。小学生ならではの割り切れなさがよく描かれていました。
 あ、先生のことも。私の六年の担任は生徒に多くのからかいの種を提供してくれたので、同じクラスだった人と集まると未だに彼の話で腹が痛くなるほど笑える。ある意味いい先生だったんだなあ(笑)
 本書には小学生時代の、短編が七つ入っている。語り手はちょっとのろまなセンリ。
 入道雲が消えないように:センリは妹のチエミが喘息のため、いつも外に遊びにいけない。夏休みに入り、親戚の洸兄やマリさんが泊まりにきた。
 ビニールの下の女の子:向こうの町で同い年の女の子が一人いなくなったらしい。センリの友達・塔子は、竹やぶの中に不透明のゴミ袋を見つけた。
 ヒナを落とす:典型的ないじめられっこのシノくん。三年生になった新学期初日、彼は巣から落ちたヒナを教室まで持ってきて……。
 五月の虫歯:歯科検診で虫歯があったので、隣町の歯医者まで通うことになったセンリ。診察が終わり、公園で親を待っていたらフィリピン人とのハーフの女の子・アザミと知り合った。
 だって星はめぐるから:チエミが寝る前に唄うなぞかけ歌が気になる。最近みんなのことを嫌いになってしまったっぽいセンリは……。
 先生のお気に入り:先生らしくないけど人気のある大場先生。茜や塔子はバレンタインの話題で盛り上がるが、センリはいまいち乗り切れない。
 夜の朝顔:隣の席の杳一郎は運動神経がよく、体育の授業ではリーダーをつとめる。そんな彼が夢に出てきて、これじゃあまるで好きみたいで困る。
 私の弟もぜんそく持ちで、入院したりしていた。すっかり健康体だけど、入院するとなると親もついていくので私は面白くなかったんだろうなあとか、ドッヂボールのうまい男の子が好きだったなあとか、五年生の時にはフィリピン住んでたなあとか、色々思い出した。
 そういうの、遠足の行き先と同じように、ほとんど忘れてしまうんだよね、残念ながら。全部覚えていられればいいのに。きっと誰にだって本にできるくらいの経験があるんだろうなあ。いい方も、悪い方も。
 私も海のある田舎で少女時代をすごしてみたかったですわ。あとオノマトペが印象的だった。