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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

香月日輪『妖怪アパートの幽雅な日常(1)』  ★★☆

妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉
妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉
香月 日輪
 このアパートへ来てから、俺は自分の考えや常識が、あっちでひっくり返りこっちで粉々に砕け散りで、そのたびにもう笑うしかなくて、そのうち本当に愉快になってきてしまったんだ。
 笑っていいんだと、思った。自分の考えや常識で、自分を縛る必要はないんじゃないかと思った。

「価値観ってのは、一つしかないとそれはもはや価値観ですらないんだ。価値観は、いろんな価値観と比べてこそ価値観なんだよ。自分の価値観も、別の価値観と比べてみて初めて価値観たるというか、よくわかるんだよな」

 癒されたよ! それ目的で借りたんですけども。堅苦しいのが読みたくなくて、ひたすら流れるように読みたくて……癒されました。私は学園ものなら否応なしに癒されます。これ、学園メインじゃないけど(笑)
 夕士が高校入学と同時に始めた、あこがれの下宿生活。幼い頃に両親を事故で亡くしたため、早く独り立ちをするのが彼の夢。ところがそこには、ちょっと変わった、しかし人情味あふれる“住人たち”が暮らしていた……。(Amazon
 主な普通サイド(?)の登場人物は夕士、彼の中学時代の友達・長谷。妖怪アパートに住んでいるのは除霊子の秋音、作家の一色黎明、画家の深瀬明、その道ではすごい人らしい龍さん、他妖怪沢山。
 活字倶楽部を読んでいると夕士=ママ、長谷=パパらしいですが、一作目ではそこまででもなかったかな。ネットで検索したら何だかすごい台詞を見つけてしまったけど(笑)いやあ楽しみです。
 夕士は妖怪アパートに来て、長谷がいうように明るくどこか突き抜けた感じへと変わっていく。上で引用した文章がまさにそれ。再読して、香月先生はヤングアダルト世代に世界は広いんだと伝えたかったのかなあと思いました。自分だけが全てだと思わないで、回りを見て、様々なものに出会い、吸収して。のびのびと育ってほしい、と。
 人とコミュニケーションをとる、それがいかに難しいかってのも考えさせられました。「議論ができない」っての、わかる。私も最近になってやっと、「議論」らしきものをするようになってきたから。楽しいことだけ喋ってるだけだと話を探さなくちゃいけないんだよね、次から次へと。一つのことをじっくり深く考えるようにしないと。
 クリの虐待話や、竹中がクスリで捕まったなど、現実に問題となっているような結構シビアな面もあるけれど、全体的に優しい癒しの空気が漂っていました。疲れた時にオススメ。