Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(上)』  ★★★☆

冷たい校舎の時は止まる (上)
冷たい校舎の時は止まる (上)
辻村 深月

「何もできない、間に合わないって、本当に便利な言葉だけでど、本当はあれに比べたら全然つらくないよ、きっと。何かできるし、間に合うのに目の前でフェンスから落ちてった。あれ俺、死んでも忘れないと思う」


 寝る前にホラーなんて読むんじゃなかったー! しかも中途半端!
 ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の謎を追ううちに彼らは2ヵ月前に起きた学園祭での自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友の名前が思い出せない。死んだのは誰!? 誰もが過ぎる青春という一時代をリアルに切なく描いた長編傑作。(裏表紙)
 傷つきやすくいかにも女の子な深月、深月の幼馴染でT大を目指す秀才にして陸上部の鷹野、あっけらかんとしていて優しいためにモテる昭彦、不良で謹慎をくらっていたが復帰した菅原、派手なジョシコウセイでサカキくんのことが好きな梨香、女だけどかっこいい生徒会副会長の景子、首席で入学した天才の清水、小柄でかわいく純粋に梨香を想う充。
 鷹野も昭彦も菅原もさぞかし女の子にモテることであろうと思われる。妙に達観した視点を持っていてしかもかっこいい。秀才・優男・不良、さらにはかわいい充まで取り揃えていますよ、みたいな。おいおい深月はハーレム状態だな。一方の女性陣はこれまたわかりやすく、儚げ・派手・美麗・天才ときている。ちょっと「彼氏彼女の事情」を思い出してしまった。あの漫画にはすごい人しかいなかった……。
 誰が自殺したのか。誰がここのホストなのか。そして目的は。自殺したのは自分かもしれないとか、あいつかもしれないとか、疑心暗鬼になる八人。主人公は深月っぽいので、ネックはやはり春子との確執でしょう。
 私は春子の気持ちはちょっと理解できるけど(それでも避けるだけじゃなくていじめめいたことを実行してしまうのは馬鹿だと思う。進学校にもなるといじめなんてほぼ存在しないんじゃないかなあ、皆それなりに頭がいいから)、深月の弱さは全く理解できないわ。どうやって育ってきたんでしょう彼女は。ふにょんへにょんと生活してたんだろうか。春子のこと以前にトラウマはなさそうだし、ここまで傷つきやすいのは異常だって。こんな面倒な子、友達少ないだろうなあと思うけど、彼女には強力なナイトの皆さんがいますからね。わけわからん。
 この本は面白いと思うけど、弱々しい女の子に自分の名前をつけちゃったりする作者が気に食わない。最後まで読まないと意図があるのかないのかわからないとはいえ、『凍りのくじら』でも作者に対する軽い嫌悪感みたいなものを抱いたので、相性は悪いのかもしれない。あくまで作者本人とね。作品は好きだ。
 続きが気になる~ってさせるのはすごいうまいと思うんですよ、心理的恐怖を煽るのとか、本当に。面白いんだよ。でもむかつくの。

 

 辻村深月、鷹野博嗣、藤本昭彦、菅原、佐伯梨香、桐野景子、清水あやめ、片瀬充。最初の時点で菅原の名前が出てないことに気づくべきだった。

 榊くん、という単語に一瞬菅原は姿勢を正す。ゆっくりと自転車から身体を起こすと、改めて梨香のことを見つめる。「サカキくん」と唇の裏側で、自分でもひっそり呟いてみた。


 あああ~!!