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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

小川一水『老ヴォールの惑星』  ★★★★

老ヴォールの惑星
老ヴォールの惑星
 たとえ人類が滅びていても、確かめる手段がないのだ。ひょっとするとみな生きているのかもしれない――そんな望みでもって、残酷に縛りつけてくるのだ。
 今あるのは、共感を失い、餓死を阻まれ、自殺を封じられた、どのような意味でも価値があるとは思えない「生」だけだった!(漂った男)
 小川一水いいよ! って話をネットで聞いたので借りてみた。結果としてはよかった! 私はファンタジーやSFは苦手なんだけど、他の作品も読んでみようと思った。
 ギャルナフカの迷宮:テーオは投宮刑を科された。一枚の地図のみを渡され、恐ろしく広大な地下の迷宮に放り出される。そこにいる人々は互いを避けあい、警戒し、時には殺し合いも辞さない。
 老ヴォールの惑星:熱風の惑星、サラーハ。そこには特殊な進化をなした知的生命体が住んでいる。サラーハの十分の一の天体が衝突することを観測した彼らは、他の惑星の知的生命体を探すことに。
 幸せになる箱庭:ビーズと称される異星被造物が木星質量を削り取るため、地球が公転軌道を外れてしまうことが分かった。異星人と交渉するために、人類全体から外交官などが、中立立場として学生である高美とエリカを乗せ、特使船が宇宙へ旅立った。
 漂った男:軍機パイロットであるタテルマは、パラーザという海に覆われた惑星にベイルアウトした。すぐに助けがくると思っていたのだが、位置が特定できないため、救助には時間がかかるという。長い漂流が始まった。Uフォンから流れる人の声を頼りにして。
 中でも漂った男はすごく面白い! 星を五つ付けたい。自分の愛する人たちがいるところから遥か遠く離れた惑星で、死ぬこともできず、生きる意味も見出せない生活。ずどーんと重く暗くなりそうな内容だが、タワリ中尉に救われた。エネルギッシュな終わり方も好みだ。泣く。
 ギャルナフカの迷宮は、すごくバタ臭い感じがした(笑)翻訳ものが苦手な私にはきつかった。SFが苦手なのは登場人物の名前がカタカナなのもあるかも。人間は一人では生きていけないんだろうな。
 自分に近ければ近い方が入りやすいので、老ヴォールの惑星はいまいち入り込めなかった。表題作なのに。どことなく暖かさが漂ってた。知能が低い者の方が諦めずにがむしゃらに頑張る、ってのがよかったのかな。個の消滅よりも知識の消滅を嘆く彼らに、人間は追いつけまい。
 幸せになる箱庭、この手の話はよくあるね。夢と現実の境目、夢が現実になるとき。私は幸せなら、夢を見続けたままでもいい。それを夢だと気づかせてくれなければ。
 タワリ中尉って、字面がワタリ(デスノート)を想起させるんですけど。