Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

光原百合『最後の願い』  ★★★★

最後の願い
最後の願い
光原 百合
「人の批評なんか気にするようじゃ困るが、人の批評を聞く勇気もない奴はもっと困るんだ。そんな奴ならいらない。だからそっちが言い出すのを待っていた」

 関係ないけど俺、「何でも私に任せておいて」って言葉、嫌いですね。「そっちは任せるからこっちは任せろ」って言うなら対等ですが、「すべて任せておけ」というのは一見親切そうでいて、相手を無力な立場に押しやる言葉じゃないですか?

 上の台詞にはグサッときたね。私は正しくそのタイプだ。
 母に面白い本ある? と尋ねられ「それはきっと女の子が死ぬ間際に云々って話だよ」と薦めた本書。後から自分が読んで唖然。何一つ、あっていやしないじゃないか。このミス10位で、読むつもりだったからあらすじには全く目を通していなかったのね。勝手に脳内で捏造されたんでしょうかね。春だし。
 毎回視点の変わる連作短篇集。劇団を立ち上げようとしている演出の渡会と役者の風見が方々で人をスカウト……てなかたちになっている。
 花をちぎれないほど…:西根響子は文芸サークル員の、結婚を控えるお嬢様主催ホームパーティーに来ていた。ワンピースにクリームをこぼしてしまった響子が洗面所に向かう途中、サンルームでお嬢様がしゃがみこんでいる。バラが踏みにじられていたのだ。
 彼女の求めるものは…:吉井志郎の周りで、不思議なことが起こっている。志郎自身も、見知らぬ美女からいきなり電話がかかってきて、あなたはフミヒコさんじゃありませんか? と言われていた。
 最後の言葉は…:デザイナーの橘修伍のもとに、高校時代の同級生・澪子があらわれる。やはり同級生で犬猿の仲だった小梶と結婚した女だ。橘は小梶が死んだ日、彼らの家を訪れていた。
 風船が割れたとき…:草薙遼子は風邪で寝込んでいた。そこへ度会がやってくる。遼子は女優になるきっかけとなった、小六時代のことを話し始める。
 写真に写ったものは…:愛美は二十年前から洋館を受け継いだ。風見は舞台の下見に訪れ、練習場所として提供してくれないかと頼む。戸惑う愛美は、洋館にまつわる「おとぎ話」を語る。
 彼が求めたものは…:結城雅春という男に辿り着き、リサーチ社の調査員としてアポイントをとりつけた。雅春は幼少時代に家が火事になり、隣家の女性に助け出されていた。
 …そして、開幕:劇場を借りた劇団φ。管理人は、ここには女優の幽霊が出るという。妻と愛人だった女優との間で板ばさみになった劇団代表が自殺し、それでも劇団を存続させようとした無理が祟っての死だったらしいのだが……。
 あらすじにかなり無理がある。ミステリだけならその筋を書けばいいけど、これはあくまで劇団立ち上げから公演までの話だからなあ。……メインはどっち? 演劇は全く興味も知識もないのだが、面白そうだなあと思った。最低二人いれば舞台がなりたつとは。
 「日常の謎」のお話でした。私は北村薫がいまいち好きになれず、日常の謎って放置してもいいんじゃなかろうかと思ってしまうために苦手なジャンルなんだけど、本書は割とぐいぐい読めた。日常の謎につきもの(本格ミステリだって動機も悪意もあるけど、日常~のほうがリアルなぶん悪趣味)の人間の悪意やら割り切れない感情やらの、後味の悪さも好きだ。短編で語り手を担当した人たちと度会・風見は絵が浮かんでくるくらい。好きなことに全身全霊を傾けるのは楽しそうですよね。