Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

伊坂幸太郎『終末のフール』  ★★★★

終末のフール
終末のフール
伊坂 幸太郎
「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の行き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

 公式サイトにあるように「派手ではないけれど大事な小宇宙が8つ詰まった、大事な本」。ほんのりと生きている素晴らしさを教えてくれる。
 八年後に小惑星がぶつかって、地球は滅亡すると判明してから五年後を描く、連作短篇集。本書に限って他作品とのリンクはないそうです。よかったー。終わってしまう世界の話だなんて、思いたくないもの。
 終末のフール:
 太陽のシール:
 篭城のビール:
 冬眠のガール:
 鋼鉄のウール:
 天体のヨール:
 演劇のオール:
 深海のポール:
 「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」といった映画も隕石が衝突する話。わかったのが衝突の少し前だったから、民衆はパニックを起こしていた。この小説のように、恐怖に長時間耐えることはなかった。あとがきでもあったけど、八年前から衝突を断言することは難しいらしいから、実際ぶつかることになったらパニック起こして死ぬのかも。八年猶予があるのとは、全然違うね。
 八年先に絶対地球が滅亡するとしたら、ある意味幸せにのんびりとした生活が送れそうな気もする。土屋さんみたいな。だって就職しようと必死になることもないし、たくわえがあればお金の心配だってしなくていい。でも、八年の間でこれからやるつもりだった事を全てやるなんて到底無理。最期を一人で迎えることになったらってのも心配だし。
 やっぱり絶望しちゃうのかな。それともがむしゃらに生きるのかな。私はこれを読む前に「のだめカンタービレ」という漫画を読み通していたから、音楽家はどうするんだろうと思った。趣味でピアノを弾く身としても、弾きたい曲がたくさんあるのに。まだ弾けない曲でも、十年後には弾けるようになるかもしれないのに。八年じゃ、足りないよね。いくら時間があっても足りないんだから。
 私はいつまで生きるつもりで生きているのか。少なくとも、明日までではない。一年後でもないだろう。脳内ビジョンではお婆さんになるまで生きているつもりだ。生物はいつ死ぬかわからないのだから毎日を悔いのないように生きろと言われても、どうしても未来を考えてしまうんじゃないかな。論点がずれてしまうけど。今日好きなことをやる前に、明日やずっと先を見据えてやらなければいけないこともある。好きなことをしていたいけど食べていくために就職しなきゃいけない。いつ死んでもいいようにおいしいものばかり食べていたら、明日明後日と太っていくわけで(笑)でも明日死ぬって言われたら、大枚叩いて好きなもの食べるな。難しい。矛盾してる。
 穏やかに死を迎えられたらいいなあ。